Volez, Voguez, Voyagez – Louis Vuitton 空へ、海へ、彼方へ ── 旅するルイ・ヴィトン展

本展は、ルイ・ヴィトンに始まる創業者一族の膨大なアーカイヴを、"旅"をテーマに一気にみせる。 地図上は麹町だが、1978年に日本初店舗をオープンさせた紀尾井町を会場に構え、入場無料、場内撮影可、特設サイトで無料アプリを提供してさらに詳しいリーフレットも配布、併設のカフェやショップも充実と、まっこと手厚い。

展示目録を重視する日本と異なり、欧州では会場全体でどのような世界観を提示するかに重きを措き、潤沢に予算を使うと、海外美術館での企画展キュレーション経験者から聞いたことがあるが、その談を裏付ける、仮設とは思えぬ本格的な造作による会場構成も大きな見所。
LVの肖像画と並ぶ第一の展示作品、ヴィトン家三代目ガストン・ルイ・ヴィトンが所有していた1906年製のトランク「マル」の円形展示台は驚きの本革張り。ゆっくりと回転して360度からみせる。
LVの初代ルイ(1821-1892)が荷造り用木箱の職人経験を活かしてトランク製造を始めたことが、現在の世界的ブランドに発展するまでの原点。トランク制作に欠かせない木材や道具類、当時の写真を収めた展示ケースやフォトフレームに至るまで、木の素材感で見事に統一された第2室。日本の美術館では常設でもついぞお目にかかったことのない洗練された会場構成に感嘆するばかり。
かつてのアトリエで使われていたという1924年の木製ケース。次の展示室で見られるトランクの原点を思わせる構造。
LVといえば、モノグラムで埋め尽くされた生地が代名詞だが、それはいかに違法コピーを防ぐかに腐心した1886年以降のこと。1854年の創業当初はグレーのグリ・トリアノン・キャンバスのトランクが主力製品。
モノグラム・キャンバスのリネン用特製デスク・トランク(1932)。
アメリカ人外交官の妻が発注した70点余のトランクのひとつだというから恐れ入る。
婦人の衣類、手袋、扇子、リボン、アクセサリー、靴まで複数収納でき、かつ書き物よう机を備えたこのようなトランクは、1910年代に企画・製作されたもの。
こちらは男性用。ショートブーツ、ステッキ、シルクハットを形を崩さず収納して持ち運べる。
1890年頃に作られた、ストライプ柄のレイエ・キャンバスのトランクの場合、展示ポイントは当時の錠前とバックルだが、製造年にぴったりとあわせて用意されたアクセサリー類も見逃せない。本展キュレーターを担当した、オリヴィエ・サイヤール氏が館長を務めるパリ市立ガリエラ宮美術館・モード&コスチューム博物館館長所蔵のコレクションがほとんど。
LVの商売は顧客との深い信頼関係にあることをうかがわせる錠前の展示。1890年に開発した5枚羽の錠前ひとつひとつのナンバーを控え、商品購入後に万が一、客が開けることができなくなった場合に備えた。
デスク・トランクの特注は現代も対応。こちらは2014年製。
これらのトランクを並べた展示台も作品のひとつ(ゆえに、台の上に手をついたり荷物を仮置きすると、会場スタッフからやんわりと教育的指導を受けるが、スタッフは頃合いを見ながら親切な解説もしてくれる)
第3室のテーマは「冒険」。当時の植民地主義を反映する展示でもある。アジア・アフリカの地を走破できる車両に積み、長期間の移動や雨への耐久性を考慮した金属製トランクが開発される。
灼熱の砂漠をイメージした展示の反対側には、海を渡る船の舳先を模した空間のしつらえ。
服飾文化史としては、20世紀初頭にランドリーとしてバックの中を仕切れるスティーマー・バックが登場。やがて訪れる豪華客船時代には、船の上で日光浴を楽しむサマードレスが流行。
自動車の旅にお伴したバック類の展示室。
インドのマハラジャのオーダーによる、グレイン・レザーのティー・ケース(1926)
トルコの王族が所有した、モノグラム・キャンバスのピクニック・トランク(1926)
LVのトランクは空の旅にもお伴する。
初代ルイの孫で双子のジャンとピエール・ヴィトンは航空開発にも関与。1910年にピエールが設計した単葉機の複製模型。
 
空の旅の展示室でやっと今回の"旅"の半分。
またガラリと雰囲気が変わり、列車の旅の展示室では、車窓にモノクロの景色が流れ、天井ではシーリングファンがゆっくりと回転。
右端:1885年頃の「ジュメル・バッグ」。
高級感あふれる展示ケース、そして閲覧用図録が用意されたキャビンコーナーの仕様。
座り心地を味わいたかったが、満席状態が続くため断念。
ウール・ダブサンス(余暇の時間)と名付けられた展示室には、収納品を限定したトランクがずらり。
壁面に埋め込まれた展示ケースには、マーク・ジェイコブスとコラボレーションしたモノグラム・グラフィティ キャンバスのバッグ「スピーディ」も。
"余暇の時間"の展示室の壁を埋め尽くすモノグラム。
美術商のためのモノグラム・キャンバスの絵画用トランク(1924)
三代目ガストン-ルイ・ヴィトンが収集した、コーラン用収納箱や金庫、漆塗りが施されたものなどさまざまな収納ボックスのコレクションを見上げながら、「セレブレティのためのトランク」の展示室へ。
下:パリ・現代装飾・工芸美術国際博覧会に出品された化粧道具ケース(1925)。
左:靴ばかり30足を収納できるトランク。
グレタ・ガルポ、キャサリン・ヘップバーン、ローレン・バコール、エリザベス・テイラーが所有したバックを並べた展示室、シャンデリアの見上げ。
顧客からのオーダーを記したカードを展示したパネル。財布ひとつ持っていなくとも、例え今なお80年代バブルのイメージを条件反射としてモノグラムに感じてしまっても、LVの世界観とブランド・ポリシーを具象化し、どっぷりと浸れる会場空間は秀逸。
1927年にリリースしたフレグランスのスケッチとボトル。
メンズコレクションの展示。郵便物用トランク、靴用トランクなど。現在のアーティスティック・デザイナーを務めるのはキム・ジョーンズ。第3室に今年の秋冬物の化粧箱が出ていた。
ファッションとクリエーションをテーマにした展示の一部。カメラがとらえているのは、2014年にウィメンズ・コレクションのアーティスティック・ディレクターに就任したニコラ・ジェスキエールがデザインした2014-15秋冬コレクションのドレス。
音楽家の"命"である楽器や指揮棒を守るトランクやケース。
ガス-ルイ・ヴィトンのコレクションのひとつに、日本刀の鍔があった。父のジョルジュも日本文化に関心があり、家紋などの「紋」が、複製を防ぐために生まれたモノグラム・パターンのデザインに影響を与えたという。そんな短い解説をモノローグに、日本とLVとの関わりを示す空間へと誘う。VVV展もいよいよ終盤。
茶道家元からのオーダーに応えた特注品と、右の赤いトランクは当代・11代目市川海老蔵のためにデザインした、鏡台付きトランク。
草間彌生、川久保玲とコラボレーションしたバッグは、枯山水の上に展示。
板垣退助が所有した、レニエ・キャンバスのスティーマー・トランクの展示台は畳敷き。縁のデザインはLVモノグラム。
最後にLVが見せるのはクラフトマンシップ。職人の手元の動きをバーチャルで追体験出来るテーブルも。
優先的に入場できる、公式サイトからのネット予約は早々に満杯。最終日前日は10時過ぎの段階で場内エントランス前に7列横隊ができ、10分弱の待ち時間で入場。
Volez, Voguez, Voyagez – Louis Vuitton 空へ、海へ、彼方へ ── 旅するルイ・ヴィトン展」は明日6月19日(日)まで。入場無料。

特設サイト
http://jp.louisvuitton.com/jpn-jp/heritage-savoir-faire/exhibitions




+飲食メモ。
VVV展は展示会場を出てすぐ目の前に併設のLV美術館カフェは、至極真っ当なメニューを揃え、鑑賞後の余韻も大事にしてくれる。入場待ちの長い列はこちらのカフェの外にあるので、視界に入らずゆったりできる。
りんごジュース(¥650)、おいしゅうございました。ごちそうさまでした。