社宅団地を農園付き賃貸集合住宅に《ホシノタニ団地》内覧会

ブルースタジオが企画・設計監修を担当した団地のリノベーション《ホシノタニ団地》を過日に見学。

事業主は小田急電鉄(株)で、同社が小田急線座間駅前に所有していた、5階建ての社宅団地4棟のうち、1-2号棟を市民住宅建替時の代替住宅に、それより後に建てられた、築50年の3号棟と築45年の4号棟の2棟を賃貸住宅とするリノベーションプロジェクト。敷地内に農園、ドッグラン、子育て支援施設を新たに設け、それらを団地住民でなくとも利用できる、というのが大きな特徴。

左の画は、敷地の外からの眺め。電車が下りホームに入線する際、この工事看板が目に飛び込んでくる。設計・施工は大和小田急建設(株)。

ホシノタニ団地》は小田急線座間駅東口駅前(下の画)、徒歩1分。駅直結の歩道橋の奥に、4月1日から入居が始まっている4号棟が見える。
この駅前ロータリーとショッピングセンター、線路を挟んだ反対側の駐輪・駐車場を含む一 帯が小田急電鉄の所有。通勤・通学や買い物のために駅および駅前を利用する市民に対して団地の施設を開放し、有効活用してもらうことで、一帯の活性化をも担うプロジェクト。
上の画の左・西側が座間駅の上下線ホーム。今は緑の葉を茂らせた桜並木と道路を挟んで団地4棟が並ぶ。南側の手前から奥に向かって4、3、2、1号棟の順。ここから北にさらに500mほど行ったところに県立座間谷戸山公園があり、鎌倉以来の歴史があるという星谷寺 (しょうこくじ)もそのほど近くにある。ホシノタニの名はここからとられており、各棟の側面には星の絵が。4号棟から春夏秋冬の順で、それぞれの季節を代表する星座が描かれている。4号棟は"春の大曲線"、3号棟は夏の大三角を結ぶ星々が。
内覧会時に配布されたリーフレットの表紙に描かれたイラスト(下の画)が、緑に囲まれ、かつては星が降ってくるように美しく瞬いていたであろう"ホシノタニ"の未来のイメージを表現している。
昨今の住宅地においては、育児施設や公園で時おり発生する子どもたちの嬌声や音などが問題視される場合もあるが、此処《ホシノタニ団地》では、安心して子育てができる環境を中心に整備し、市もバックアップしている。今後の生活イメージとしては、契約農園で親が作業している間、子どもたちは緑の芝や築山を元気いっぱい駆けまわり、遊んでいるうちに自然と友達も増えていくー例えばそんな画が描ける。
ブルースタジオが手掛けた、農菜園とセットとなった集合住宅として思い出されるのが、2011年にリノベーションされた団地《AURA 243 多摩平の森》、そして昨年竣工した《青豆ハウス》だ。ほか《すずの木ハウス》など幾つかの事例での実績を経て、多摩と比べて規模が倍以上となった今回のPJに取り組む。
既にリノベーションが完了し、入居も始まっている4号棟と、7月1日から入居開始の3号棟のモデルルーム計3室を見学する前に、before/afterがわかりやすいように、改修工事中の1室を見学。2号棟の脇を抜け、1号棟へ。
塗装前、壁面劣化診断の指示が青字で入れられた、まるでグラフィックペイントと見紛う2号棟の外観。1号棟も同様で足場が組まれている状態。ごく最近まで、社宅として使われていた。
いかにも団地然とした鉄扉から室内へ。
上の画・右の扉の奥はトイレで、扉の半分上に竣工時ママと思われる模様ガラスが嵌っている。
改修前の浴室。
1,2号棟は今後、市内で市民住宅が新築される間の代替住宅として使用される。建具の表装 の貼り替えや、外も含めて壁が塗り直しが行なわれる。
かつての間取りは、畳敷きの和室2間+ダイニングキッチン=いわゆる2DKだった(上の画:開 いた建具の左奥がキッチンで、白い100角タイルが前壁に貼られているのが見える。向かいあってもう1間アリ、玄関と通ってきた廊下、浴室は画面右側に位置する)
これがリノベーションでどう変わったか。間もなく引き渡しとなる3号棟を見学。
旧小田急電鉄社宅団地は1,2号棟が壁構造、3,4号棟が鉄筋コンクリート造(ラーメン構造)。棟と棟の間は駐車場だった。3,4号棟では、アスファルトを剥がし、新たに土や緑を入れて、農園と前庭、築山を1つ造成している。
全棟の耐震診断の結果、3,4号棟の一部にはブレース補強が入れられた。
1棟に3カ所ある入口付近はリ・デザインされた。郵便受を交換し、全面の壁を棟のシンボルカラーで塗装。棟の側面に大きく描かれていた星座のひとつがサイン代わり。これなら小さな子どもでも迷うまい。
各部屋のナンバープレートは直径20センチほどの円形で、3号棟では緑の地色に白ヌキ文字。子どもの目線にあわせた低い位置に取り付けられている。
3号棟 B-101 モデルルーム内観。
1号棟で見た通り、かつては襖で仕切られた2DKだった空間を、間仕切り壁や建具などを取り払い、37.38平米の1LDKに。壁と天井は白く塗り直した。前壁の一部に白い100角タイルを貼ったガス台付きキッチンは造作。
註.家具類はモデルルーム用に用意されたもので、家具付き賃貸住宅ではナイ
リビング・ダイニング側から、北側の寝室の眺め。既存の建具は取り払われ、カーテンで空間を仕切る。以前は和室だった2間も畳を外し、ナラの無垢材によるフローリングでL字空間を連続させた。
45-50年前の団地ともなると、室内に洗濯機専用置き場はなく、新たに洗濯機パンを洗面室に用意する必要があったため、水まわりのレイアウトは変更さてている。
浴室はユニットバスに交換。
ロータンク式トイレ。このモデルルームでは玄関脇にある。かつては収納スペースだったと ころ。
モデルルームに置かれていた写真パネルで、今回のbefore/afterが窺い知れる。
内外観共に階数に関係なくほぼ同じのベランダ付き。1階に住んでいても庭先には降りられなかったが、今回のリノベーションで3,4号棟の1階からベランダを撤去し、芝も整備して、専有庭と小さな畑を用意した。註.上の画・リノベ後の外観は、3号棟西側のカフェスペースのもの。
3号棟の庭の先にはレンタル農園がひろがっている。小さな扉から出入りできるので、仮に友人のだれかが農園を借りていれば、採りたての茄子やトマトを持ち込んで皆でパーティ、というシチュエーションもあるだろう。
3号棟 1階の外観。デッキと専有庭+何を植えても自由な畑付き。このため、2-5階の家賃はほぼ同じだが、1階だけ加算となる。
農園ではきゅうりの苗や農具を貸りられ、定期的にサポートも受けられる。前述《AURA243 多摩平の森》にも参画している(株)アグリメディアの運営(詳細:同社のサイト「シェア畑 座間」)。住民でなくとも誰でも契約できるとあって、農園の両側に建つ棟の部屋よりも先にほぼ満杯に。
繰り返しになるが、以前は殺風景な駐車場だったところを、緩やかなアプローチと街灯を整備し、アジサイなども植えた。元より木々は少なく、上の画の奥に見える小さな松の木を含めて数本程度だった。
"春の大曲線"のひとつである乙女座が描かれた4号棟Bのエントランス。これより1階のモデルルームを見学(この日の関係者向け内覧会は、3号棟引き渡し2日前の午後に計5回開催された。それぞれ少人数のグルームに分かれ、ブルースタジオの大島専務をはじめとする関係者の解説付きで計4室を見てまわった)
先ほどの3号棟のモデルルームと大差ないようにみえるが、元の空間ではI型キッチンの背面にあった壁を取り払い、キッチンカウンターを壁側に寄せた分だけやや広くなっている。
前述のモデルルームではベッドが置かれていた寝室。基準階の室内天井高は2,230mmで、現代の空間に慣れている身にはやや低く感じられた。だが後で訊くと、この時代の団地は1階の床にスラブをうたない木構造であるため、1階に限っては150mmほど下げて気積を増やすことができた。
トイレ、洗面、ユニットバスがひとつにまとめられた水まわり。洗面台の左側にはもちろん洗濯機パンも併設。
続いて同じ4号棟の上の階へ。エントランスCのシンボルは獅子座。
ノンスリップ部分も含めて実に見事な棟内階段。目にした限りでは傷んだ箇所は見当たらず。築45あるいは50年でもシブい輝きを放っていた。

さて、先ほどのB-101で見たダイニング・キッチンの画と比べて欲しい。下の画は元の空間にあった壁をそのままいかしたレイアウト。
壁を挟んで、左側にI型のキッチンカウンター、右側には浴室があった。こちらの部屋タイプではB-101同様に水まわりを1箇所に集約し、奥行きのあるクローゼットに。
そのほかの仕様は各室でほぼ同じ。気積を確保するため、電気配線は天井を這わせ、シンプルなペンダント照明を吊るした。
寝室の窓からの眺め。北側の向かいが3号棟。
寝室の奥からリビング、ベランダの見通し。
ベランダから南西側の眺め。座間駅は目と鼻の先。
眼下の施設は座間市子育て支援センター「ざまりんのおうち かがやき」。団地住民以外でも利用できる市営の施設で、6月8日の開所以来、人気を集めているとの話は納得できる。
ちなみに「ざまりん」とは座間市のマスコットキャラクターの名。「ざまりん」のデザインを除き、敷地内のサイン計画、ピクトグラムのデザインはブルースタジオが担当した。
3号棟の1階にはカフェもできる。6月28日開催のオープニングイベント「ホシノタニマーケット」へ向け、内覧会時は開店準備中。
このカフェは貸し農園を管理するアグリメディアの運営で、長野県産の米と野菜をつかったおにぎりや総菜などを提供する。その名はズバリ「農家カフェ」。
壁を1枚挟んだ隣の部屋は、オープンキッチンとなる予定。利用ルールなど詳細はこれから。
農園を前に、カフェの左側にはドッグランと正方形のウッドベンチ、奥の2号棟側に駐輪場も設けた。駅のホームに沿った桜の並木道との境にあったフェンスは、全て低い柵に取り替えられている。
実は、団地を"外に開く"ことについては懸念する声も関係者から何度か挙がったのだが、明るく開放的な雰囲気をつくり出すことが、団地を含めた地域の安全・安心に繋がるのだと納得してもらえたいう。
ヒノキとサワラのウッドチップが敷かれたドッグラン(入居者専用)。広さは約100平米。《ホシノタニ団地》では条件付きで犬や猫を2匹まで飼うことができる。
限られた事業予算のなかで、代替棟と賃貸住居棟(3号棟28戸+4号棟27戸=計55戸)で、それぞれ改修すべき箇所の優先順位を決めて取り組み、駅前の風景と雰囲気をも一変させた。
内覧会見学時、小田急電鉄車両に吊り広告が掲出される前の段階で、4号棟27戸のうち13戸が申し込みあり。ブルースタジオが手掛ける物件への問合せは、同社のホームページ告知をみて、というケースが殆どとのこと。これから新たに引っ越してくる人々と、古くからこの地に住む人々との交流の場となり、ゆくゆくは座間を象徴するような団地となることが期待されている。

ホシノタニ団地 公式facebook
https://www.facebook.com/odakyu.hoshinotanidanchi



+飲食のメモ。
できることなら3号棟の「農家カフェ」の食レポを続けたかったが、オープンは今週末。
駅前の人の流れが変わることで、周辺の飲食店マップ情報も今後は徐々に変わっていくのではあるまいか。例えば、東口駅前におシャレなカフェが出来たり。
昼時は粥とフォー麺のランチ、午後はカフェ、夜はアルコールと一品料理を提供する店「HOME」は、1-2か月ほど前にオープンしたばかり。
カフェメニュー:本日のシフォンケーキ/バナナ+ソフトドリンクのセットで税込み626円とお値打ち。ミルクがピッチャーで供されるのも有り難し。
おいしゅうございました。ごちそうさまでした。

下の画は別の店、ロータリーを挟んで「HOME」の対面にある欧風パン&洋菓子「ポエム」のカウンター席にて。ホシノタニ団地のブログ「ホシノかけら」にもその名が登場するが、地元住民に長年愛されてきたと思われる佇まいと、アイスコーヒー180円というノボリに引き寄せられる。下の画・3品合わせて消費税込み767円とこちらもかなりお値打ち。
蒸しパンを食べていた先客のおばあちゃんが、私の手荷物を気遣って椅子を1つズレてくれたり、おしぼりを渡してくれたり。最後は「どうぞ、ごゆっくり」と微笑んで席を立ち、帰っていく姿を見送る。自家製タルタルのフィッシュバーガーと半生チーズケーキ、そしてアイスコーヒーもおいしかったけれど、さらにほっこりする至福の一時を味わう。
ごちそうさまでした。