石巻工房 東京ショールーム オープン

石巻工房東京ショールームが6月17日にオープンする。宮城県に拠点を構える石巻工房が、これまで世に送り出してきた数々のプロダクツを常設し、実際に手に取って触れて見てもらうための空間である。小さな工房も併設している。
場所は文京区小石川の住宅地。元は印刷工場だった、築50年ほどの木造2階建てをコンバージョンした。

石巻工房が設立されるきっかけとなったのは、2011年3月に発生した東日本大震災。地震と津波で大きく被災した石巻市商店街にある割烹料理屋「松竹」の内装を、芦沢啓治建築設計事務所が手掛けていたことが縁となり、店の2Fを場として、芦沢氏を中心に人の輪が広がり、生まれた"ものづくりの場"である。
公式動画「石巻工房の歩み History of ISHINOMAKI LABORATORY(2014年12月公開)

建築家として何ができるのか、現地の人々と共に考える日々のなかで芦沢氏は、被災後早々に営業を再開させ、繁盛しているた店の存在を知る。建築のシロウトであるその老店主は、自らトンカチを握り、刷毛でペンキを塗って、傷ついた店を蘇らせた。この Do it youself =DIYによる修復の精神が、復興のひとつのモデルになるのではないかと考えた芦沢氏は、震災から3か月後の6月、同業のデザイナーらに工具や木材の提供および協力を呼びかけ、現地での活動も開始した。商店街の空きテナントを期間限定で借り受け、復興・復旧のための公的な場所=石巻工房を旗揚げしたのはその翌月のことだ。
設立当初のコアメンバーである、芦沢氏、トラフ建築設計事務所DRILL DESIGN藤森泰司アトリエらデザイナーが図案化した家具を、最初は地元の高校生とのワークショップなどを通じて製作し、改良を重ねてきた。野外イベントのベンチなどに利用されてきたが、好評を受け、2012年1月に一般販売を開始する。ブレないコンセプトに裏打ちされた「DIYメーカー」という評価と収益を海外でも得て、2014年3月には(株)石巻工房としての法人化に至る。ほぼ同時期にBtoBのコントラクト事業部も立ち上がり、公共施設や商業施設の什器、オフィスのロビーなどにもスツールやテーブルが並ぶ。例えば、下の画:《国立新美術館》1階ロビーに昨年オープンしたミュージアムショップ「スーベニアフロムトーキョー」でも、「石巻工房」と焼き印された円錐形のレジカウンターや平台を目にすることができる(内装設計:トラフ建築設計事務所)
ミラノサローネをはじめ海外での展示会出展も複数回果たし、 参画クリエイターも、今では内外で活躍する15組18名の名がクレジットされている。 工房も徐々に大きくなり、昨年5月に郊外の渡波に移転して約500平米という広さに。 だが「地域のものづくりの場」という設立趣旨は変わらない。関係者いわく「技術はもちろん人々の智恵を積み重ねてきた家具」とのこと。
石巻市渡波で工房長を務める千葉隆博氏は元寿司職人(上の画中央左端)石巻工房は現地では貴重な雇用の場としても機能している。ショールーム開きの晩、(株)石巻工房の代表を共同で務める千葉氏と芦沢氏(同画面中央)ら関係者が出席。集まったプレスや関係者を前に、待望のショールームオープンの喜びと同時に、この4年間の歩みと現地の現状を報告した。"問題解決のための家具デザイン"を掲げ、被災地支援プログラム「Project Japan」の一環として内外の社員から成るボランティアスタッフを2011年に派遣、その後も技術協力を継続したハーマンミラー社の日本法人代表松崎勉氏も並んで挨拶に立った(同右端)

建物の1階がショールーム、小さな工房も奥に併設(以下に続く昼間内観画像5点は石巻工房提供)
石巻工房の家具類は、日本的なちょっとした小空間でも使いやすいサイズで、軽量であることも特徴のひとつ。トラフがデザインした「AA STOOL series」は容易にスタッキングが可能(上の画)
用途の場や材料の選択肢も広がり、レッドシダー以外にも、例えばテーブルの脚としてスチールも扱えるようになった(上と下の画)
上の画・左端のソファは、先の「インテリア ライフスタイル」に出展されていた新作も(デザイン:芦沢啓治)
CASE-REALの二俣公一氏がデザインしたスツール「FLAMINGO」も含め、オンラインショップでは叶わなかった、実際の使い心地を試すことができる(今のところショールームでは在庫を持たず、店頭での販売開始時期は検討中とのこと)
Michael Marriott がデザインした「MIYAGI CLOTHES HANGER」に掛かっているトートバッグは、今なお仮設住宅で暮らす宮城県南三陸町出身の女性たちが作ったもの。DRILL DESIGN らデザイナー指導のもと、現地でのワークショップを通じて生まれた「BUONA PESCA」、手ぬぐいなどのテキスタイル商品も新たに加わっている。
手前:三澤直也氏がデザインした「IKS BOOKSTAND」。
(上の画・奥の壁側に置かれた階段状のシェルフは、丹青社が行なっている「人づくりプロジェクト」を発端として芦沢氏がデザインした「SUTOA」。同PJの2014年の作品展示会の様子はコチラ
建物の2階も展示スペースとなっている。靴を脱ぎ、約50年という逐年数を実感させる急な階段をあがる。
二間続きの和室に置かれた3人掛け「KOBO SOFA」や、サイズ違いでテーブルにもベンチにもなる「MA series」など。
リノベーションした部屋に工房の家具を置いて、暮らしのなかで実際に使われるイメージを掴んでもらいたいという空間展示。
こちらは工房の製作ではないが、ガス台付きキッチンと、ハーマンミラーのチェアがセットされたダイングも併設。
打合せのほか、後述の部屋に滞在するゲストが利用できる生活環境と設備を整えた。
2階と1階の改装は、芦沢啓治建築設計事務所が手掛けた。なお、同事務所は東京ショールームからほど近い場所にある。
廊下の間に、洗面・バスルームと和室、奥にも2部屋あり。
2階の3部屋はベッドルームに改装。オープニングにあわせて来日したスイス人デザイナーが、そのうち1部屋を使用中。
昭和テイストのガラスが嵌った引き戸の奥が水まわり。
ドラム式洗濯機の上に、温泉地の浴場か銭湯でみかけるような木の腰掛けが置かれている。ロンドンを拠点に活躍する tna studio の安積朋子氏がデザインした「CARRY STOOL」で、スツールであると同時に、上の画のように上下を引っくり返せばトレーとしての機能も果たす。ピクニックやガーデニングに付随した屋外向けでの用途を想定してデザインされたもの。
壁・床ともモルタル仕上げの浴室。
2階ダイニングと廊下の一角には、芦沢氏がデザインしたウォールシェルフやコーナーキャビネットも(共にIKEA PS コレクションより発売中のシリーズ)
被災した店舗や住宅の修復を出発点に、地元の人々との椅子やテーブルづくり、木工に限らずテキスタイルにまで商品の場を広げた石巻工房。今後の展開を注視したい。

石巻工房 東京ショールーム(平日10-19時、要予約制)
http://ishinomaki-lab.org/showroom/




+飲食のメモ。
石巻工房東京ショールームは、都営地下鉄春日駅または東京メトロ後楽園駅の北側の地上出口から徒歩で10分ほど。芦沢事務所で道案内を乞い、途中の目印のひとつ、"白い壁のおシャレなイタリアン"として挙げられていたのが、ピッツェリア&トラットリア「AOI NAPOLI」。
その隣に、同じ系列店のパティスリー「パラディ小石川本店」がある。
イートインスペースの営業は18:30まで。焼き菓子や生菓子、系列店「ARINCO」のロールケーキなどの販売は19時まで。
7月末までの期間限定商品「グラナパダーノチーズとりんごのミルフィーユ」は消費税込み540円ナリ。ゴルゴンゾーラのようなクセのあるチーズなので苦手な人もいるだろうが、美味しゅうございました。ごちそうさまでした。

パティスリー パラディ小石川本店(PATISSERIE PARADIS)
www.patisserie-paradis.com/lineup/koishikawa.php



駅周辺には小さな商店街もあり、飲食店も多数。テレビや雑誌でもたびたび取り上げられている「本枯中華そば 魚雷」のスープは、動物系と植物系の出汁をコーヒーサイフォンで抽出してブレンドするという、たいそう凝ったもの。エスプーマ(スペイン語で泡の意)が青菜の上に添えられて供された。
スタンダードな「中華そば」は、複数あるトッピングメニューから3つを選べる(刻みネギと、麺と一緒の青菜は標準で付いてくる)。上の画は、甘辛く煮たナス、香ばしい豚チャーシュー、うずらの卵のチョイス。消費税込み720円ナリ。姉妹店で近くにある「信濃神麺 烈士洵名 東京店」のものと似た、おそらくは同様に麦殻が練り込まれた特製麺。
麺もスープも完食(=飲み干すの意)。美味しゅうございました。ごちそうさまでした。

本枯中華そば 魚雷
http://bond-of-hearts.jp/shop_gyorai.html