INAXライブミュージアム@常滑にて

常滑にあるINAXライブミュージアムを見学。1986年に「窯のある広場・資料館」を開館したのに始まり、97年「世界のタイル博物館」、99年「陶楽工房」など、常滑焼きの文化と伝統が息づくやきものの町にふさわしい施設が多数。
INAXは現名称LIXILだが、さらに前身の伊奈製陶創業の地とあってか、今でもINAXのブランド名を施設名称に冠しているようだ。
ちなみに上の画・敷地内に点在する立体標識は、やきものではなくブロンズ製。

そのうち「土・どろんこ館」は、「ものづくり工房」と共に2006年のオープン。「光るどろだんごづくり」は毎日、土にまつわるワークショップを不定期で開催している。 ちなみに2013-14にかけて、トラフ設計事務所が会場構成を担当して開催された「建築の皮膚と体温 ―イタリアモダンデザインの父、ジオ・ポンティの世界」は、こちらの企画展示室が会場だった。
敷地内のサイン計画は(株)GK京都出身のデザイナーで、東南西北デザイン研究所/石川新一氏によるもの。てのひらを囲むように星や器のマークが入ったピクトグラムは、体験型ミュージアムであることを示す。鋳鉄にガラスが嵌った入口のドアも美しい。
版築の外壁、常滑大壁のカーブが美しいエントランス空間などは、左官職人の久住有生氏の仕事(参考:左官株式会社〜施工作品。受付カウンター側面やトイレ前のイタリア磨きによる壁の仕上げなど、建物を構成する素材ひとつひとつが、火と土と水をテーマに掲げる館のコンセプトを表した手の込んだもの。

3月22日まで開催の企画展「雨と生きる住まい 環境を調整する日本の知恵」は、長雨、霧雨、こぬか雨、催涙雨など、雨の降り方を表す語彙が豊富な日本において、雨と湿気に耐えてきた住まいのかたちを考えるもの。同館ではこれまで火と土に関する企画展は開催してきたが、ストレートに水を取り上げるのはほぼ初めて(2010年「泡と湯気―愉楽の発見」開催)
企画展示室の奥にある、高さ4mの土壁には、白いテキストが雨だれのように上から下へと流れ、展示品で下半分が隠れているが、型枠に入れた土を15cm幅ごとに突いて押し固め、積み上げた版築工法によるもの。足下の黒い床は洗い出し。

会場入口にも瓦葺屋根に雨を降らせた実験展示があったが、同様の茅葺きのモックアップが組まれている。
下の画・向かって左側が人馬が住まう屋根「真葺(まぶき)」、右側が物置用の「逆葺(さかぶき)」。
真葺は中に空洞がある藁のストロー部分を積むが、逆葺は先端の細い部分を用いて仕上げる。 厚みの違いや美しさの差は一目瞭然。
本展では、車のワイパー性能テストに使う降雨ノズルを上部左右に設置して、そこから断続的に茅葺屋根に向けて水を噴射、しとしとと降る雨を再現すると共に、茅葺の高い防水性能をみせる。軒先からしたたる水音が、環境音楽のようなBGMとなって場内を雰囲気を潤す。
ススキ、稲ワラ、麻ガラなどあわせて約500kgの材料を会場に搬入し、京都美山の職人が葺いたもの。滅多に見られない茅葺き屋根の断面および各部名称も確認できる。
このほか、破風、軒や庇、縁側空間など、特に"台風銀座"に位置する南国地域の民家における、雨や湿気対策の設えなども図解。絵画や浮世絵に描かれた雨の情景を見ればなおさら、日本人にとって雨は馴染み深く、親しみも感じてきた自然現象なのだと改めて思う。

館を出てすぐ目の前にある、2012年にオープンした「建築陶器のはじまり館」へ。
参考:開館を告げるLIXILニュースリリース(2012.3.13)
上の画・中央:《横浜松坂屋本館》(竣工1934年-解体2010、以下の書式同じ)、その右隣:東京千代田区《朝日生命館》(1939-80)、同左隣:大阪市《大谷仏教会館》(1933-83)など、近代以降に建てられ、役目を終えて取り壊されたビル、または現存するも修復などで取り外されたのレリーフやテラコッタが、屋外展示エリア(テラコッタパーク)にまとめて展示されている。
右から、《新橋演舞場》(1925-79)、遠藤新《武庫川女子大学甲子園会館/旧甲子園ホテル》に付いていた建材の一部。
かつては高所にあったレリーフを至近で見られて、手でも触れ、ファサードの断面まで見られるのが、こちらの展示の大きな特徴。
大蔵省営繕管財局設計による《自治省庁舎》(1933-2001)では、太平洋戦争時に空襲に備え、天井にコンクリートを流して補強したという、焼け石に水ならぬ"爆撃にコンクリ"という、本土決戦の悲壮な痕跡が確認できる。
千代田区内幸町《大阪ビル一号館》(1927-86)のファサードを飾っていた、藤森照信"建築探偵"の著作でもお馴染みの異形のテラコッタたち。設計は渡辺節建築設計事務所(村野藤吾)

館内にも展示品多数。F.L.ライトが設計した《帝国ホテル旧本館》(1923-67)のダイニングルームの柱の一部まであった!
解説によると、この柱に使われた"スダレ煉瓦"を焼いたことが契機となり、伊奈製陶(INAXの旧名)が創業する。全てではないが、収蔵展示品の一部は伊奈製陶のタイルが採用されている。
左から、《日本工業倶楽部会館》(1920-現存)、《警視庁庁舎》(1931-77)、《聖路加国際病院》(1932、一部現存)の一部だったもの。ほか、《名古屋市庁舎》(1933、現存)、《国会議事堂》(1936-2003、一部現存)、内田祥三設計《東京大学医科学研究所》(1937、現存)のレリーフの一部など。
武田五一設計《京都府立図書館》(1909-2001、一部現存)の展示品がまたどでかい。

ここまでかなり端折っているが、じっくり見たら常滑に宿をとらねばならぬ。詳細はLIXIL公式サイト〜INAXライブミュージアム訪問記が詳しいのでリンクを設定しておく。
 

1997年開館、国内外のタイルをコレクション、うち1,000点を展示している「世界のタイル博物館 / INAX TILE MUSEUM」へ。
来場者を迎えるアーチ。実際に何処ぞにある門ではなく、この建物のコンセプトを象徴したもので、トルコ石の青、ナマコ釉の藍、織部釉の緑のほか、窯で焼かれる際の空気の量が影響して色が決まるという、銅が還元した赤、鉄釉の黄、水金など、多彩なタイルで構成されている。接写を忘れたが、覆輪目地という二段になった目地は、東京駅丸の内駅舎でも見られるとのこと。
仕様の詳細は、公式サイト〜研究レポートが詳しい。
数年前に展示リニューアルしており、1Fは各国タイルによる空間展示に。紀元前のウルク神殿の壁を飾っていたと思われる、円錐形の"粘土釘"=クレイペグによる壁面装飾を再現(詳細:INAX Report No.174レポート。会場では、子供たちが粘土を手ごねして壁を再現してみるワークショップの様子も上映中。
イスラームのタイルが張られた天井ドーム、当時の市民の暮らしぶりがうかがえるオランダタイル、ヴィクトリアンタイルによる室内腰壁装飾など(上の画)。下の画は日本をイメージしたモザイクタイルの空間展示。
各展示の施工の様子を含めた詳細:Inside INAXレポート/No.JS0712
2Fの常設展へ。階段がまた豪華なこと。
空間展示から一転、世界各地のタイルや、やきもの文化の歴史を追う構成となっている。上の画は、モロッコ、パキスタン、シリアのタイル。このほか紀元前3000-4000年紀にメソポタミア地方で出土した、前述・粘土釘も見られる。
金属の輝きが鮮やかな、18-19世紀頃のラスタータイル。
このほか、近代の象嵌タイル、銅板転写タイル、チューブライニングタイル、モーガンのタイル、ストーブタイルなど、解説をじっくり読みたい展示品のオンパレード。様々な形状をもつイギリスタイルの裏側まで見られる。
床が歪んでいるようにしか見えない、足を踏み入れたくない展示室も。何度も確かめたが、列は直線。
もちろん、日本の長いやきもの文化の一翼を担う、タイルの展示あり。
瀬戸染付本業敷瓦。白地に呉須(コバルト)で絵付けしたもの。
こちらもメード・イン・ジャパン。文明開化と同時に日本に齎された海外の建築技術と、付随するタイルを真似て、国内で製造された和製ヴィクトリアンタイルの数々。

1Fに戻り、企画展も見学。3月15日まで「壁のパブリックアート」展を開催中。日本にパブリックアートの概念が定着し始めた、東京オリンピック開催前の1960年代を中心に、作家の岡本太郎らが手掛けた、モザイクタイルによる作品を改めて見直す展示。解体される《国立競技場》にも、宮本三郎「より高く」(1964)や、寺田竹雄「よろこび」(1964)なる作品が飾られていたとのこと。
INAXライブミュージアムは第3水曜日が休館。共通入館料は一般600円、高・大学生は400円、小・中学生は200円。アクセスは名鉄名古屋駅から特急で常滑駅まで約40分、駅前からバスもあるが、タクシー利用が早い(料金は900円前後)。
詳細は公式サイトを参照。

INAXライブミュージアム
http://www1.lixil.co.jp/ilm/



タイル博物館」の1Fには、窯焼きピザを出すイタリアレストラン「Pizzeria la fornace(ピッツェリア・ラ フォルナーチェ)」が入っている。入館料なしで入店できることもあり、開店以来、地元で高い人気を誇る。
テラス席もステキだが、この日は風が強かったので、店内にて「ミュージアムペアランチ」をいただく。2名からオーダー可の、昼から王様気分に浸れる豪勢なメニュー。
「イタリア産水牛のモッツアレラのカプレーゼ」。
前菜盛り合わせ、お任せ3点盛り。
本日のスープ。
本日のピッツア5種類から選んだ「クワトロ・フンギ」。
本日のパスタ5種類から選んだ「サーモンとキノコのクリーム」。
ボリューミーなドルチェのプリンに、ドリンクが付いて、税込みで1,750円ナリ。トコナメ価格に感動。
たいへん美味しゅうございました。ごちそうさまでした。

INAXタイル博物館 1Fレストラン「Pizzeria la fornace(ピッツェリア・ラ フォルナーチェ)
http://www1.lixil.co.jp/ilm/restaurant/