青木茂建築工房リファイニング共同住宅オープンハウス

同事務所の代表を務める青木茂建築工房がリファイニングした、杉並区内の共同住宅を過日に見学。

立地は京王線代田橋駅から徒歩10分、環状七号線と水道道路がぶつかる泉南交差点に面した、北西を向いた三角形の角地。元々は南側に建つ8階建の共同住宅の増築部分として建てられた、RC造3階建てのビルが今回の物件。
築34年が経過した2011年に、環七が特定緊急道路に指定され、耐震改修の対象となった。新しく建て替えると建築面積が現状よりも減ってしまうことから、今回のリファイニングとなった。

左の画は北西側からの物件眺め。手前の白いビルがリファイニング作品。


内覧会当日、新設された宅配ボックスの前に貼られていた数点の写真(下の画)から、再生前のビルの姿を確認できた。交差点に対して斜めになっている面に大開口が設けられるなど、外観が一変している(内側も同様、後述)
当ビルには確認申請図書と検査済証がなかったため、既存不適格=建設当時は法に則っている建物であるという証明をはじめ、必要書類を全て青木事務所で整え、認証を取った。
なかでも特筆すべきは、繋がっていた南側の共同住宅から建物を切り離し、敷地も含めて完全に分割したこと。その上で、現行法に適した耐震構造とするため、不要な部分を撤去して建物の軽量化を計ると同時に、必要な補修を施した。
ビルの南端、隣接棟との境。左右の2棟がかつて繋がっていたとは、現状からは全くわからない。完全に独立している。
裏の北側からの見上げ。
北東側にベランダ(既存)がある。今回のリファイニングでは、都の安全条例に基づき、東側に必要な開口を設け、それにより全フロアの区画割りを大幅に見直している。詳しくは後述。
外装は明るいホワイトのガルバリウム鋼板。幅3種類の鋼板をパターン張りしている。デザイン処理でもあるが、モルタルで厚を増やした既存壁の保護と、パネルとの間に空気層を設けることで断熱の効果もある。
新たに設けたガラスの大開口から、白い内部階段が見える。この斜めの壁がそのまま南北のラインに平行する。
両脇に小さな花壇が設えられたエントランス。元々の出入口および共同の内部階段はここではなく、前述の隣接棟の側、南端にあったのだが、空間として暗く、またコンクリート造の段差も急で、行政から現法不適合を指導されたこともあり、ガラス張りの空間に移動させた。
鉄骨造となった内部階段の見上げ。各戸前の廊下にダウンライトがあるが、日中は外光でじゅうぶんの明るさ。
一気に3階まで上がり、内部階段の見下ろし。階段幅を含めて全て現行法に準拠。
内部階段を上がりきったところから、外部を含めた見下ろし。横断歩道が渡っている道が、東の方角、新宿方面へと続く水道道路。
内部階段の明るさは、新たに設けたトップライトのお陰でもある。
以前は居室の一部であり、台所のキッチンが置かれていたこちらの空間。では、元々のコンクリート階段があったところはどうなったのか?
旧階段の辺りは、新たにスラブをうち、居室の一部に。上の画は、最上階302号室。
屋上へ続くかつての塔屋階は、302号室のロフトとなった屋上も専有できるので、賃料も一番高い。

リファイニング前と後で、1フロアの戸数は「2戸」と変わらないが、区分が大きく変わっている。以前は環七と平行するように仕切られ、ざっくりいえば西と東に分かれていたのが、今は南北となり、北東側のベランダも各戸に付いた。
上の画が区画変更の例としてわかりやすい。向かって右が、かつては隣の棟と接していた側。取り壊す前は共有廊下があったが、陽があまり差し込まず、内部階段ともども暗かった。それが、今回の区画変更により、環七が走る南東側の居室(画面手前側)から、ベランダがある北東側まで見渡せるようになり、室内に明るさを取り戻した。東西の窓を開ければ、風も通り抜ける。
302号室のキッチン(202、102号室共通、以下同様)。水まわりが全て新しくなるのも、再生建築の魅力のひとつ。
302号室 洗面+脱衣室。ガラス戸の外はベランダ。かつては台所の窓が開いていただけで、外には出られなかった。都の安全条例に基づく変更。
バスルーム。
トイレも温便座+シャワートイレ付きに。
302号室の洗面・脱衣室からの見返り。廊下の先が前述の東南側居室。ロフトに続く階段が奥に見える。仕切りの引き戸の面にはブルーの装飾用シートが貼られ、目隠しとワンポイントを兼ねる。
幹線道路である環七は、曜日を問わず交通量が多く、ダンプなどの大型車両が何台も通るため、騒音対策は必須だった。道路に面した窓は遮音性の高いサッシを採用、内部階段ではペアガラスを用いている。お陰で、内覧中は棟内のどこに居ても、外の音は全く気にならなかった。壁厚を増して金属鋼板をたてた効果もあるのではないか。
内部階段の見上げ、アップ。補強の鉄骨を壁から突出させ、同じく鉄骨の内部階段を支えている。
201号室の内観。1-3階の-01号室共通のレイアウト。
101号室の内観。壁には鴨居が設けられている。
1階エントランス付近から共有階段の見上げ。階段下は宅配ボックス、ゴミ置き場、消化器などを収納。
消化器の納まり。扉の開閉はプッシュ式。
こうして、築38年のビルは新築同等の耐震性を獲得し、税法上の耐用年数以上の建物として、銀行からの長期融資も可能にし、狭小ながら、市場価値を高めることに成功した。

今回の内覧会は参加費100円。会計と引き換えに手袋とスリッパ、そして建物概要から工事の流れがひととおり追える総カラー16Pのリーフレットが手渡された。本テキストは、現場でスタッフから受けた説明に加え、青木事務所作成によるこの詳細な資料に拠るところが大きい。
なお、「セドーレ笹塚(Cedre Sasazuka)」という名称で検索をかけると、家賃や平面図などの詳しい情報が外部・不動産情報サイトに表示される。

青木茂建築工房
www.aokou.jp/




+飲食のメモ。
現地から北へ15分ほど歩いた住宅街の一角に、空腹時に立ち寄るとかなりの散財をしてしまう、天然酵母のパン屋がある。「Seedsman BakeR」と書いて、シーズマン・ベーカーと読む。
丸ノ内線方南町駅から歩くとけっこうある。方南図書館を目指して行くとわかりやすい。朝7時から営業しているのが、パンによって焼き上がり時間あり。休みは月曜、火と連休になることもあるので注意。下の画は晴れた後日の外観。
品揃え豊富な午前中、棚を前に熟考していると、立て続けに2組が来店。これを潮に6品を選び、テイクアウト。なお、店舗の脇にある小さなテラス席でコーヒーと共にいただくイートインも可。
上の画、奥から時計回りに、パン・ド・ミ ハーフサイズ(190円)、中にベーコンが入ったオニオンパン(260円)、ハーブソーセージ(260円)、アップルパイ(360円)、1つだけ残っていたほうれん草とナントカのパイ(260円)
どれもこれも食べ応えあり、たいへん美味しゅうございました。ごちそうさまでした。

シーズマン・ベーカー(Seedsman BakeR)facebook
https://ja-jp.facebook.com/SeedsmanBaker