「活動のデザイン」@21_21 DESIGN SIGHT

21_21 DESIGN SIGHT で開催中の企画展「活動のデザイン THE FAB MIND」を、関係者のレクチャー付きで見学。

11カ国・24組のクリエイターが賛同、発表した作品が並ぶ会場を一通り見ると、世界の何処かで起こったこと、リアルタイムで起きていること、これから問題になりそうなことの一端がわかるのではないだろうか。副題は"Hints of the Future in a Shifting World"、フライヤーにある本展監修者の言葉には「本展を通じて、変動する世界におけるデザインの可能性を感じて」とある。

日本の建築家では、大西麻貴+百田有希/o+h、スキーマ建築計画の長坂常氏が出展。三氏は1月12日(月・祝)に開催される関連トーク「建築家の視点と『活動のデザイン』」にも登壇予定。

会場を見る前にフライヤーを一読した限りでは、2010年にアクシス・ギャラリーで見た「世界を変えるデザイン展」を想起したが、同展が発展途上国における様々な問題をクリアする試みだったのに対し、こちらの「活動のデザイン」は、オランダや英国、日本を含む先進国も含めて、デザインとは何かをストレート問いかける内容で、考えさせられる。携わる人々の活動ーー計算されていない行為も「デザイン」として広義的に捉えている(以下、出展者の一部で敬称略)

来場者を迎える1Fロビーの展示作品、アルヴァロ・カタラン・デ・オコン(Alvaro Catalán de Ocón)による「ペット・ランプ」(2012-)。制作地で得られるペットボトルと材料を使って作られるランプシェード。
これらは制作をスタートさせたコロンビアと、チリで制作されたもの。作家に制作を促したのは、現地の川や海を汚す廃棄されたペットボトルだという。シェードの色やかたちはそれぞれ、天辺のキャップとボトルの色、形状にも差異がある(日本では透明なボトルが主流だが、これは珍しいことらしい)。垂れ下がった色とりどりのコードの配置も作家による構成。

本展のために日本国内で作られたシェードランプがこちら。
1本だけ別になった赤いコードを目で辿りながら地階へ降りると、見事な竹細工による作品が吊られている。
地下1Fロビーの壁面には、ダグラス・クープランド(Douglas Coupland)による「21世紀初頭のスローガン」は、現在も継続中の作品。英語による24のスローガンが日本語に訳され、ランダムに配置されている。タント紙に収まる字数にも配慮して熟考され、インパクトのある和訳に。
ロビーを進んで右側には、ペール・エマニュエルソン(Per Emanuelsson)とバスティアン・ビショッフ(Bastian Bischoff)によるヒューマンズ シンス 1982(Humans Since 1982)の作品「ア・ミリオン・タイムズ(A Million Times)(2014)。これが凄い。12×32個のアナログ時計の短針と長針が、1分単位のデジタル・プログラミングで、マス・ゲームのように動き出し、時を告げる。
今回の「A Million Times」は、本展のために新たにプログラミングされた。384×2=768本の針が一斉に動く際の、さざ波のような音と相まって、見飽きない。
フライヤーの裏面にもイメージが出ている2013年の作品は、youtube上で公式動画を見ることが出来る。

ロビーからギャラリー1へと続く小さな一角にある展示もお見逃しなく。室町〜江戸時代前期に焼かれた茶碗を、明治期に金で継いで修繕したと思われる「鉄絵茶碗」が出品されている(日本民藝館所蔵)

「呼び繕い」という修繕技法を、本展で初めて知るに至る。

織咲誠「ライン・ワークス ―線の引き方次第で、世界が変わる」。
インターデザインアーティストである作家が2000年から展開しているスタディ(参考:ブログ「織咲誠 Line_Works」)を、多摩美術大学学生らの協力も得て発表。展示台はダンボール製で、壁一面の緑のパネルも、ダンボール+板に黒板塗装を施したもの。
私達の身の回りには、実は、線によって仕切られ、線によって構成されるモノであふれている。ラインが有ると無いとでは、そのモノが成り立たない場合も。例えば、PTP包装と呼ばれる錠剤の梱包は、1錠ずつではなく、現在では必ず「2錠」の状態でカットしやすいように切れ目が入っている。では何故に「1錠ずつ」ではないのか?
展示台にふられた番号→R-LW(Research of Line Works)035のテキストを読み、その理由を初めて知った。1錠ずつカットできてしまうと、閉じ込められている錠剤を指で押し出さずにPTP包装のまま、誤って溜飲する可能性があり、それを防ぐ為だという。
ほかにも、昔は四角形だったサッカーのゴールネットの形状が六角形になったのは、結束点が多いことで変化しやすくなり、シュート・ボールを美しく見せ、華やかなゴールシーンを演出するためだったとか、今までウッカリ・すんなりと見過ごしてきたデザイン情報が黒板に満載。

テキストを読み進み、ふと足下を見ると、赤と白に半分ずつ塗られた石コロが3つ。地雷原とセフティ・ゾーンを分ける「地雷標石/Mine Maker」と呼ばれるもので、アフリカの紛争地で実際に使われている標石だという(上の画でちょうど石の前に人が立っている[=影が落ちている]のだが、左足側に地雷があるので危険、右側が安全だと教えてくれる)。アジアの某国において、立て看板の類いではなく石コロである理由もあわせて知る(参考:1月12日、17日には地雷標石提供に協力したAAR Japan職員によるミニトークが開催される:AAR Japan 1月9日プレスリリース

本企画展の狙いとしては、会場でのこのような体験をもって、世界の事象や諸問題について関心をもってもらい、今後も意識を傾け続けて欲しいと、いう願いも込められている。
同作品の会場閲覧用の英語訳。ダンボールを加工して、アイロンをあてて伸ばしたもの。什器の造作を含めて、ラインワークスのキーワードのひとつである"物質量やコストに頼らない"姿勢を示している。
同作品の展示台(ガラス越しに、前述の作品「A Million Times」の眺め)
「or-ita(オリタ)」でも知られる織咲氏による「ライン・ワークス」は、バックミンスター・フラーが提唱した"より少ないものによるより多く"という思想に影響を受けている。

同じくギャラリー1に展開する「フィックスパーツFixperts」の展示には、長坂氏ら6組が出展。ある個人の希望なり課題に対し、クリエイターのスキルで修理・改良して解決していくプロジェクトの実例を紹介。
長坂氏は今回、世界各地を飛び回る生活を送っているので家具を持てず、荷物を「上手に収納できない」という悩みを訴えた女性のために、トラベルバッグの中にハンガーやポケット付き収納などを収めた「ムーヴァブル・シェルブス(Movable shelves)」を考案。
ネット上の動画では、スキーマ建築計画のオフィスでの打合せやスカイプミーティングの様子まで公開、会場では完成した後の様子も映し出されていた。
ボランティア的な活動だが、解決までのプロセスは3分間の動画にまとめられ、ネット上で共有するのが決まり(動画は会場でもループ上映中)。それを見た、同じ問題を抱える見ず知らずの第三者の悩みが実際に解決されているという。

続くギャラリー2には、一風変わった展示も。人知れず編み続けられてきた「ロースさんのセーター」(出展者クレジット:DNAシャロアー&クリスティン・メンデルツマ/ヴァンスファッペン)
最近は某テレビ番組でも見られる仕掛けだが、編み手であるローズさんに捧げられたフラッシュモブ「Flashmob Truien van Loes」の模様を伝える映像の完成度が素晴らしく高い。本展のフライヤーやポスターに使われているメインビジュアルは、秋のロッテルダムのストリートを繰り広げられる、このパフォーマンスに参加した全員の記念撮影シーンである。

このほかにも展示は多数=さまざまな活動のデザインの例が提示される。

本展を見に行く直前に、youtubeの動画で見た「美しすぎる地雷除去装置」の実物が置かれていた。今のところ世界に3つしかないという「マイン・カフォンMine Kafon」である(3つのうちひとつはMoMA収蔵品)
成型したプラスチックの円形パーツと、アジアでは容易に調達できる竹、GPS装置を内臓した金属の中心部から成る。

2011年にこの地雷撤去ボールをデザインしたマスード・ハッサーニ(Massoud Hassani)はアフガニスタン生まれ、15才でオランダに亡命した経歴をもつ。
同国のデザインアカデミーで学んだハッサーニ氏は、オランダのアーティストであるテオ・ヤンセン(Theo Jansen)氏を尊敬しているそうで、Mine Kafonの公式Facebookには、同氏と一緒に砂浜で「MineKafon」をテスト中のワンショットも掲載されていた。

タクラム・デザイン・エンジニアリング(日本)による作品「Shenu:100年後の水筒」(2012/2014)は、飲料水が全く手に入らない過酷な未来世界を仮定し、どのように人体を"デザイン"すれば生き延びられるかを考察。
ヒト水からが1日に排泄する水分を体内で浄化し、再び体内に取り込みためには、尿道および頸部/頸動脈付近に埋め込む人工臓器が必要に。
カンガルーネズミ、オリックスなど砂漠に生きる動物たちの体内構造も考察、作品に反映されている。

牛込陽介氏の「プロフェッショナル・シェアリング:シェアの達人(2014)も興味深かった。プレゼン映像では、シェアリング・エコノミー/共有型経済が発展した近未来でプロ・シェアラーとして生きる某氏を想定し、長短表裏一体のシェアの可能性を提示してくれる。
観賞用に用意された黒いベンチは、坂茂デザインのチェアと思われる。

大西麻貴+百田有希/o+h による「望遠鏡のおばけ」。
昨秋に開催された「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2014」における野外展示「スワリの森」にも、「視点を変えるイス」と題した同様の作品が出展されたが、大筋のコンセプトは共通している。会場動線の最後・サンクンガーデンにも「長い望遠鏡」を展示中(後述)
英国人と日本人によるユニット、スタジオ スワイン(Studio Swine)が考案した"都市の鋳造場"「カン・シティ(Can City)(2012)で生み出されたアルミ製チェア3点と、サンパウロでの実際の制作映像。

スーパーフラックス(Superflux)「ドローンの巣」は、3体の無人飛行機ーー画面上部:監視ドローン「ナイトウォッチャー」、画面左奥:交通管理ドローン「マディソン」、画面手前:広告ドローン「ルートホーク」が捉えた都市の風景をもとに、ドローンと共生する未来を描いた映像作品。「攻殻機動隊」を想起させるようなシーンも。
展示の最後を飾る、o+hの作品「長い望遠鏡」。コンクリートを打設する際に用いられる紙管で出来た望遠鏡を覗くと、離れた場所にある某作品(ネタバレ:ホンマタカシ氏の2014年作品「カメラ・オブスキュラ・スタディ―青山→六本木、建築で建築を撮る」の一部分が見える。会場に再び戻らないと何が見えたのかが判らないが、肉眼とは異なる視点を提供し、本展をより楽しんでもらう為の装置というのが出展2作品のコンセプト。

来場者に様々な"気付き"を齎し、デザイン(活動)への関心を芽生えさせる異色の企画展「活動のデザイン」は2月1日まで。入場は有料(トークイベント聴講時も当日チケットが必要)。詳細は公式サイト参照を。

21_21 DESIGN SIGHT
www.2121designsight.jp/