「チームラボ 踊る!アート展と、学ぶ!未来の遊園地」@日本科学未来館

いま最も注目される、ウルトラテクノロジスト集団 チームラボ(teamLab)の個展「チームラボ 踊る!アート展と、学ぶ!未来の遊園地」が、台場の日本科学未来館で始まった。

代表を務める猪子寿之氏が大学卒業と同時に友人5名で立ち上げたチームラボは現在、プログラマ・エンジニア、数学者、建築家、CGアニメーター、デザイナー、絵師、編集者など、総勢350名のスペシャリスト集団に。デジタルでどのようなことが可能かをテーマに、アート・デザイン・サイエンス・テクノロジーの境界を曖昧にするチャレンジングな作品を発表している。

「仕事として誰かに頼まれるわけでもなく、アート作品をつくる」ことを創業時から一貫して続けてきたというチームラボ(展覧会図録、序文より)。ここ1年間の主だったアート展としては、「シンガポールビエンナーレ2013」、香港「Art Basel - Hong Kong 2014」、佐賀「国後半島芸術祭」に参加、米国N.Y.Pace Galleryにて個展「Ultra Subjective Space」も開催。グッチ新宿店でのインタラクティブアート展「infinity of flowers(下にリンク)はWBSでも取り上げられていた。最近では、長崎ハウステンボスを会場に新作「呼応する木々」を披露、六本木ヒルズで開催された「pixiv祭」の空間設計も担当した。

TEAMLABNET 2014/09/23公開動画
「infinity of flowers」(再生時間:2分37秒、BGM有)

会期初日の閉館後に行なわれた内覧会に出席したチームラボの工藤岳氏は、本展のコンセプトを説明する際、海外の個展会場で体験したあるエピソードを語った。2012年に國立台湾美術館で開催された「We are the Future(藝術超未來)」でのこと、アートからプロダクトにいたる19作品を展示した会場には、週末になると親子連れが目立って訪れた。幼少の頃からアートに触れさせたい親心は世界共通。静寂を旨とし、鑑賞マナーを強いる場である公共の美術館で彼等が見たものは、自分達が作った作品で、台湾の子どもたちが思いっきり遊んでいる姿だった。しかもはしゃいでいるだけでなく、とても知的で創造的に遊んでいたという。その様子に、スタッフの一人は我が子も連れてきたいと願い、チームラボとしても子供たちのためのアートを作りたいという総意に至る。これが国内外で人気を博している「学ぶ!未来の遊園地」の原点である。彼等は云う、「人もアートも踊れる」のだと。

TEAMLABNET 2012/09/12公開動画
「Peace can be realized even without order / teamLab exhibition "We are the Future" (beta ver.) 」
(再生時間:2分03秒、BGM有)註.本作品は日本科学未来館会場には展示されていない

本展はチームラボの代表的な「アート」と「未来の遊園地(:サイエンス・テクノロジー)」作品を、大きく2つの会場に分けての競演となる。新旧作品を体系的かつ大規模にみせる展示は国内では初めて。
同展のキュレーションを担当した日本科学未来館の内田まほろ氏は、彼等に展示を依頼した理由を3つ挙げた。先ず、デジタルマテリアルを使って明るく積極的な未来を提示していること、ものづくりを共同・恊働して進めていること、近代以前の日本人の知性や空間感覚を重要視している点だ(チームラボが「超主観空間」と呼称する空間認識については後述)。同館における本格的なアート展は今回が初とのこと。
常設展示「Geo-Cosmos(ジオコスモス)」の下に設けられた入口から企画展会場へ(別途企画展入場料要)。新旧あわせて計15作品が展開する場内は特に一方通行ではないので、退場までの間ならば行き来もできる。
註.以降、作品画像は全て静止画。作品名に設定したリンクは、同展公式サイトに接続、作品の動画が見られるのでそちらを推奨する(BGM付き)


壁の両側が鏡張りの通路を含めて、最初の作品が始まる。
花と人、コントロールできないけれども共に生きる、そして永久に – Tokyo
インタラクティブデジタルインスタレーション 2014、音楽:髙橋英明
展示空間は出入口を除く四方の壁が鏡張り、足下に花が咲いては散っていく。鑑賞者の密集具合や人の"ふるまい"によって、たくさん咲いたり、一斉に散ったり、分布形態が変容する。アルゴリズムで構築された"地表"に、同じ画は二度とあらわれない。5分間隔で季節が移ろい、1時間で1年が経過する。花は東京でよくみられる25種類で、春にはパンジー、夏にはヒマワリが咲き、寿命を迎えた花は"自然と"散っていく。
作品概要はキャプションが添えられ、カタログ(税込756円)に記載もあるが、どのようなふるまいに対してどのように花々が呼応するのか、会場で身体を動かしてお試しを。

右:「生命は生命の力で生きている
アニメーション 6min23sec(9:16) 2011、書:柴舟
左:「冷たい生命
デジタルワーク 2160×3840pix. 7min15sec(ループ) 2014、書:紫舟
右の作品は、空間に書く書「空書」。立体的に現われる文字の上に、花が咲き、緑が芽ばえ、やがて白い雪が積もる。左はその空書を再構築した書「生」。Ultra HD(4K)の解像度によって超微細に描かれた映像作品。

花と屍 剝落 十二幅対
デジタルワーク 1min50sec(9:16×12)  2012
ベースとなっている作品「花と屍」は、チームラボが提唱する「超主観空間」のコンセプトに基づいて制作されている。
超主観空間」とは何か? 明治以降に入ってきた、遠近法に代表されるような西洋の空間の捉え方・鑑賞手法ではなく、それ以前の日本人が持っていたとチームラボが仮定する感覚のこと。現代の我々から見ると日本画は「平面的」に見えるが、当時の(現代とは異なる感覚を脈々と培ってきた)日本人の目には、奥行き感のある、空間・立体的に見えていたかもしれない。絵の「中」に入り込むような視点と感覚で、当時の絵画を描き、鑑賞していたかもしれない。それらの空間認識や論理構造は、現代の最新技術であるデジタルと相性が良いとチームラボでは捉えている。
この作品を前に、チームラボの工藤氏は、ファミコンゲーム「ドラゴンクエスト」と、日本の「大和絵」の平面/空間構造との類似性を指摘した。日本人の空間認識能力として無意識のうちに受け継がれ、だからこそ「ドラクエ」などのゲームが爆発的な人気を博したのではないかとも(下記リンク:チームラボの猪子代表も、下記リンク先のプレゼンの後半、「スーパーマリオ」の横スクロールアクションと、「超主観空間」におけるレイヤー的な空間認識による論理構造との類似性について述べている)

参考リンク:猪子氏による「日本文化と空間デザイン〜超主観空間」@TEDx福岡
(「花と屍」を題材に「超主観空間」に関する解説/3分5秒過ぎ、同作品の制作プロセス/4分30秒過ぎ の解説もあり)
TEDx Talks 2013/04/24公開動画(再生時間:17分16秒、音声有)

この「超主観空間」という考え方は、チームラボ作品の基幹を成すコンセプトとして、場内で何度も繰り返される。作品を何度も行き来し、キャプションや解説パネルのテキストを咀嚼しながら会場を進む。ちなみにこの時点で未だ全体の1/3である。

世界はこんなにもやさしく、うつくしい
インタラクティブアニメーションインスタレーション 2011、書:柴舟、音楽:髙橋英明
小さな四角い展示空間の壁に流れる映像作品。時おり、紫舟さんの書による「文字」がヒラヒラと落ちてくる。その文字に鑑賞者の影が触れると、ある変化が起こる作品。
例えば「雪」に触れれば白い雪が舞うのだが、他の鑑賞者が「風」に触れたタイミングの場合は吹雪と化す。文字同士が相互に関係性を持っている。こちらの作品も同じ「画」は二度と出ない。
チームラボは、デジタル技術はコスト減などの利便性だけでなく、「美の概念を拡張できる」と考えている。壁に掛けられた状態で向き合い、ただジッと眺めるのが非デジタル作品とするならば、デジタルは鑑賞者が作品に干渉することでインタラクティブ(双方的)な展開が可能だ。その場限りのライブ感、その瞬間にしか得られない作品にもなる。おのずと美そのものの表現方法や、鑑賞する側の意識も変わっていくだろう。
その所為か、どのようなふるまいが作品に影響を与えるのかを考えさせる作品が多い。鑑賞の視座を現場で模索し、マナーも皆でシェアする方がきっと楽しい。

ポスターや図録など本展のメインビジュアルになっている作品「Nirvana
アニメーション 6min20sec 2013
江戸時代の絵師伊藤若沖(1716-1800)の絵画「鳥獣花木図屏風」と「樹花鳥獣図屏風」をモチーフにした動画作品。動物たちはいったん網目状の線で3次元立体に描きおこされたもので、上記「超主観空間」を基に、改めて升目状の平面に置き換えられている。気の遠くなるような彩色作業だったという。高さ約5m、幅約20mもの"大作"(上の画は、来場者に作品解説中の工藤氏)

追われるカラス、追うカラスも追われるカラス、そして分割された視点 ‒ Light in Dark
デジタルインスタレーション 4min20sec(ループ) 2014、音楽:髙橋英明
左右に雁行して3列に配置された計8枚のスクリーン上を、光を帯びた複数の八咫烏がスピーディに飛び回る。自在なアングルで烏たちを捉え、まるで一緒に飛んでいるかのような臨場感が味わえる。鳥同士が衝突すると花が咲き、飛翔の軌跡が展開する光の「空書」。
この作品は、「超時空要塞マクロス」などで知られるアニメーターの名を冠する「板野サーカス」へのオマージュでもある。2次元のアニメーションで立体的に見せていたデフォルメ表現を、チームラボとして3次元空間で再現。スクリーンから離れた位置から俯瞰するも良し、水面のようなフロアの奥へと進み、作品の中に入り込んで鑑賞するも良し。見飽きない。

「アート」展示の終わり、「遊園地」の手前に、"おさらい"コーナーが設けられているチームラボの本社オフィスを模したインテリアと思われる)
最初の展示作品「花と人、コントロールできないけれども共に生きる、そして永久に – Tokyo」の制作プロセスが解説されている。読むと、平面的に見えた花々が全て、3Dモデルによるアニメーションを平面化した作品であることが判る(なんとなくだが)

暗幕カーテンの仕切りをくぐると、そこは「学ぶ!未来の遊園地」の大空間。"共同で創造する「共創」の体験"を学び、楽しんで欲しいと制作された8作品がズラリ。

大小のボールを叩くと音がなり、ぶつかり具合で色も多彩に変化する。

日本テレビの番組「スッキリ!!」商品開発部とのコラボ作品。宇宙都市をテーマに、子どもたちが描いた絵で構成される架空の街。画に触れると、インタラクティヴな変化が生じる。不定期に"モンスター"も現われ、口から炎を吐いてビルを真っ黒焦げにする場面も(上の画)。直ちに消防車が出動、鎮火後に街は再生される。

ブロックの凹面と凸面を合わせて遊ぶ。凸のブロックが持つ情報が凹に伝わり、例えば赤と青のブロックを組み合わせると、ブロックの色は紫に。

奥:「お絵かき水族館2013
手前:「小人が住まうテーブル2013
上記の"宇宙都市"と同様、描いた絵が(場内でスキャンされてから)画面上を泳ぎ始める夢の水族館。なんと"エサ袋"まで用意されている。魚に触れてみると、ぴゅーと逃げられた。
円卓上をチョコマカと走り回る小人たち。テーブル上に手をおくと、指に飛び乗ってきたりフレンドリーに反応してくれる。置かれたモノの形や色により、小人たちのアクションも卓上の世界も変わっていく。

テーブル上に積み木を置くと、同じ色同士のと積み木の間に線路や道路が開通し、電車や車が走り出す。

○△□を上手に踏むことが出来ると、楽しげな音が奏でられる。どのカタチ、色の組み合わせで踏むかによって、足下の色彩も変化する。美しくさせるにはどうしたらいいか、あれこれと試して、デジタルケンケンパ道を極めて欲しい。

まだ かみさまが いたるところにいたころの ものがたり
インタラクティブデジタルインスタレーション 2013、書:紫舟
スクリーン上に現われる象形文字に触れると、文字が持つ意味に基づく世界が具象化される。現われたモノ同士が影響しあうので、その因果応報的な反応まで楽しめる(場内に「象形文字/相互作用一覧」あり)

ある作品を前に、工藤氏が「僕らはすぐ作品をリロードしたくなる」と語っていたが、この言葉にチームラボの姿勢がよく表れている。象形文字まで学べる15番めの作品も、開催の前月に追加が発表されたもの(フライヤーおよびカタログには未掲載)
 

場内は撮影可能で、SNSへの掲載もフリー。会場の外には「チームラボカメラ」なる撮影ブースも用意され、下記公式Facebookにオリジナルポスターとしてアップロードされる。
相反するイメージを抱きがちな芸術とサイエンステクノロジーだが、英語の「art」の語源は「技術」を意味する欧州古語に遡ると聞き齧ったことがある。本展における並列も、チームラボとしては元を同じくするものであり、何ら違和感を覚えなかった。デジタルアートはPCやモニターで鑑賞するものという固定観念をも鮮やかに打ち破ってくれる。
欲を言えば、本展の入場料は少々値が張るので、リピーター割引の実施を期待したい。

会期は2015年3月1日まで、が当初の予定だったが、好評につき5月10日まで延長となった

開館日時や時間、関連イベントについては下記公式サイトを参照。「クリスマス・ナイトミュージアム」が開催される12月23日には、チームラボ代表の猪子氏と、アンドロイド研究の第一人者である石黒浩氏との対談もセッティングされている。

「チームラボ 踊る!アート展と、学ぶ!未来の遊園地」公式サイト
team Lab Sake! Art Exhibition and Learn and Play! teamLab Future Park.
http://odoru.team-lab.net/
同展公式Facebook
www.facebook.com/teamlabodoru

日本科学未来館
NATIONAL MUSEUM OF EMERGING SCIENCE AND INNOVATION
www.miraikan.jst.go.jp/




+飲食のメモ。
館内5Fにある「Miraikan cafe」は、「bills」や「sign」と同じ会社が運営している。「隕石アイス」や「地球ソーダ」など、科学未来の館ならではのネーミングが楽しいメニューあり。上記企画展中は、地球の総人口のうちネット利用社の比率を見た目に反映させたドリンク「Lab☆スカッシュ」も。
隣の皿(ボリューミーな「タンドリーチキンプレート」、ユーグレナ(みどりむし)付き「和デニッシュソフト」)にもそそられたが、ミニサラダ付き「惑星カレー」をオーダー(消費税込み700円)
カレーの海に浮かぶ黄色い"星"はジャガイモかと思いきや、中身はケチャップライス。白い帯はチーズフォンデュ。
おいしゅうございました。ごちそうさまでした。

Miraikan Cafe
www.miraikan.jst.go.jp/guide/shopcafe/tenant.html

なお、こちらのカフェは館外からの飲食物持ち込み可。1Fと7Fにもフリーの飲食スペースがある。7Fの展望ラウンジは眺望も良く、窓際の席数も多い(以前、レストランが運営していたが、2年前に閉店したのが惜しまれる)。なお、5Fカフェは新たに飲食テナント事業者を公募中のようだ(リリース)。