LIXILギャラリー講演会「建築の皮膚感覚 ジオ・ポンティと村野藤吾の表現を探る」

東京・京橋3丁目のLIXILギャラリーで開催中の企画展「建築の皮膚と体温 -イタリアモダンデザインの父、ジオ・ポンティの世界」関連トークセッション「建築の皮膚感覚 ジオ・ポンティと村野藤吾の表現を探る」を聴講。会場はギャラリー近く、京橋2丁目のAGC studio。語り手は本展キュレーションを担当した田代かおる氏(デザインジャーナリスト)と、近代建築史が専門の建築評論家・長谷川堯氏(武蔵野美術大学名誉教授)。会場は満席、18時半定刻にスタート。
LIXILギャラリー会場(展示デザイン:トラフ建築設計事務所)


長谷川先生は本展に関与していないが、本展がテーマに据える「建築の皮膚感覚」を共通のキーワードとして、ファサードの装飾性が高いとの評が定着している村野藤吾(1891-1984)の一番の語り手として招かれた。
先ずは田代氏が、展覧会や図録でも触れられている、ジオ・ポンティ(1891-1979)の幅広い仕事ぶりと、異端の建築家であったというポンティの建築作品について、45分間の持ち時間でレクチャーした後、奇しくもポンティと生まれ年が同じである村野藤吾とは何者だったのか? 長谷川先生の"講義"の始まり。

生前にインタビューしたこともある村野藤吾を「闘う建築家」と定義した上で、何と闘っていたのか、その理由、同年代のモダニストから痛烈に批判されながらもおそらく確信犯的にやっていたーー時に長谷川堯をして首を傾げさせるー村野氏の表層デザインについて、スライドを映しながら、次から次へと出てくるエピソードを交えての解説は聴衆を惹きつけた。

《世界平和記念聖堂》《そごう大阪本店》《丸栄本館(増築)》《旧・ドウトン》《横浜市庁舎》《西宮商工会館》《旧・八幡市立図書館》《早稲田大学文学部棟》、《出光興産九州支店》、《大阪新歌舞伎座》《名古屋都ホテル》ーーなどの貴重な外観写真は、長谷川氏が所持するポジ。スライドプロジェクターのマウントが手動で送られる度に発生する(カッシャ、カッシャン)という音と相まって、一緒に聴講していたO氏の言葉を借りれば、まさに「幻灯会」のような趣き。

スライド上映された村野作品は、現《目黒区総合庁舎》のような"現役"もあれば、あっけなく取り壊されたものも多い。長谷川先生も深く関わっている『村野藤吾 建築案内(TOTO出版、2009)を帰宅後に捲ってみると、商業建築から個人邸まで(ポンティのように幅広く)手掛けた村野藤吾の作品が、「クライアントに愛された」証として数多く収録されているが、もはや"在りし日の姿"になったものも。そういえば、展覧会および講演会場のはす向かいに建っていた《京橋三丁目ビルディグ》も今はない。

「建築のファサードとは、建物が『おじゃまします、よろしくお願いします』と都市に向けた挨拶である。建築には、空間を身体化させるような、建物に人が心を通わせるきっかけとなるものが必要だと、亡き村野氏も度々口にしていた。人の心が通うことで、建築は初めて"建築"になる。人が触れることができるファサード部分は、そこから建築全体に考えを及せるようなデザインであるべきで、実は、モダニストたちが範とするル・コルビュジエも同じ考えだった。彼はポンティと同じく、絵を描き、家具を制作し、使う色は黒やモノクロでなく実に多彩だった。日本にはコルビュジエ像が結果として誤って伝わってしまい、今日に定着してしまった。」

長谷川"講義"は持ち時間を超過、用意されたスライドも途中で上映打ち切りに。終始柔らかな語り口だったが、今の建築業界や建築を取り巻く環境を、厳しい言葉で批判し、持論を展開する姿は、初めて受講した頃より少しも変わらぬ。

建築の皮膚と体温 -イタリアモダンデザインの父、ジオ・ポンティの世界」展の会期は11月22日まで、水曜休館。開廊は10時-18時、入場無料。

LIXILギャラリー
http://www1.lixil.co.jp/gallery/

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+飲食のメモ。
LIXILギャラリーおよびAGC studioからも近い、京橋3丁目の「美々卯」にて、聴講前の腹ごしらえ。

1958(昭和33)年創業の大阪の名店。「うどんすき」が登録商標になっているが、此処にくるとどうしてもコレをオーダーしてしまう、しかもうどんではなく「そば」で。

青ネギ、色の薄いお出汁、薬味の山椒がふりかけられて出て来る「鳥なんば」(消費税込¥900)は絶品。最後の一滴まで飲み干すに限る。

美味しゅうございました。ごちそうさまでした。

美々卯
www.mimiu.co.jp