「東京オリンピック2020から東京を考える」展

一般社団法人日本建築学会主催「 建築文化週間2014」本部企画のひとつ、建築夜学校2014関連企画展「東京オリンピック2020から東京を考える」を見に行く。今日が展示最終日。会場は田町の建築会館1Fにある建築博物館ギャラリー。
本展タイトルは、今年の建築夜学校(開催告知.PDFの主題でもある。展覧会初日の10月1日、および9日の夜には、槇文彦氏はじめ出展者が登壇したシンポジウム(第1夜「新国立競技場の議論から東京を考える」、第2夜「オリンピック以後の東京」)が開催され、両日ともU-STREAMで動画配信されている。

さて、国立競技場(正式名称は国立霞ヶ丘陸上競技場、以降は競技場と略す)の建て替えを前提に、国際デザイン・コンクールでザハ・ハディド氏によるデザイン案が選ばれたのが2012年11月(公式の経緯は、独立行政法人日本スポーツ振興センター/JAPAN SPORT COUNCIL [以下JSC] サイトの「新国立競技場」を参照)。おお、いよいよザハの本格的な作品が日本に! というドリームはさておき、鉄骨、予算、時間の確保に先立つべき解体着工が遅延しているとのマスコミ報道を聞くまでもなく、前途多難であろうことはシロウトでも想像できる(建てる五輪関連施設がコレだけではないことも)
ザハ案の概要が明らかになった後、公益社団法人日本建築家協会の機関誌『JIA』vol.295(2013.8月号)に、槇文彦氏が「新国立競技場案を神宮外苑の歴史的文脈の中で考える」を特別寄稿、神宮の森に半ば恒久的に残る公共施設としてあのボリュームはいかがなものか、と異を唱えて以降、堰を切ったように様々な意見や活動がみられるようになったのは周知の通り。
本展では、以下4つのゾーンに分かれ、ザハ案とは趣を異にする競技場のプラン、建て替えないリノベーション案、競技場に比べて表立った議論があまり見られない選手村のプラン、そもそも「オリンピック」とは何かを捉え直そうとするスタディなどが各種発表された。以下、出展者氏名は敬称略にて。

1.新国立競技場関連展示
2.オリンピック選手村代替案
3.オルタナティブ・オリンピック
4.ポスト・オリンピックに向けて


1.新国立競技場関連展示
出展者:槇文彦、伊東豊雄、田根剛(DGT)、森山高至、青井哲人+明治大学青井哲人研究室
高齢化が進む人口構成、更に低下する国民総生産(GDP)などを踏まえ、30年後の競技場の姿を想定した槇文彦氏の提案。
昨年9月に行なわれた「第123回建築家フォーラム」に登壇した槇氏の講演を聴講した際、「建築の価値とは、街往く人の視線によって判断されるもの」とのメモが残っている。1964年の「東京オリンピック」体操/プール競技施設である《東京体育館》を手掛けた槇氏としては、巨大なザハ案に強い違和感を覚えるのだろう。

伊東豊雄氏の競技場案。ミュージアム、図書館、商業施設を内包した、人々が日常利用できる都市型スタジアム。太陽光や通風などの自然エネルギーの有効活用も見込む。この右側にはリノベーション/既存スタジアムの改修保存案のパネルも出展されていた。

田根剛(DGT)が2012年に発表した設計案「KOFUN STADIAM/古墳スタジアム」。
「日本最大の建造物である古墳と、世界最大の祭典であるオリンピック競技場をひとつの場として提案する」(展示パネルより序文を抜粋)
フロア中央には、JSCから貸し出された「新国立競技場ザハ・ハディド案及び周辺模型」も置かれているので、新国立競技場設計競技最終選考案のひとつでもある田根案や、周辺施設との比較ができる。
ザハ案「新国立競技場ザハ・ハディド案及び周辺模型」の一部拡大。
画面左側から時計まわりに、《聖徳記念絵画館(通称:絵画館)》と毎秋デザインイベントが行なわれる絵画館前広場、上で見切れているのが《明治神宮野球場(神宮球場)》、右下の円形の建物が槇文彦設計《東京体育館》。

下の画は、ほぼ同じ角度から俯瞰した田根案の模型。
会場には、秋に紅葉した「古墳スタジアム」の大判イメージビジュアルもあり、日本人の心情にグッと訴えかけるものがあった。

参考までに、今月初旬にJR千駄ヶ谷駅改札から南に直進、東京体育館前交差点付近の坂の上から、東に位置する「神宮球場」方向を眺めたのが下の画。
ザハ案は規模縮小も取沙汰されているが、この景観が果たして6年後にどうなるか。
ところで、いわゆる「新国立競技場問題」とは何が"問題"なのだろうか。本展キュレーターで出展者の一人である建築家の松田達氏が、「建築文化週間2014」開催前に「論点」と「メモ」にまとめ、公開しているPDF、計8ページの超力作)

冒頭で触れた建築夜楽校2014第1夜にも登壇している青井哲人氏は、明治大学青井哲人研究室と連名で出展。 「新国立競技場問題」に関する資料を集め、公的機関・人物の発言、JSC、建築家、建築評論、その他評論、記者、一般の7つにカテゴライズ、時系列にまとめている。
このほか、内外の主立った競技場の延床面積と収容人数の比較、国内主要スタジアムの営業利益比較および年間イベント日数と芝の管理の表など(「新国立競技場関連記事データベース」として公開中。これも力作)

建築エコノミスト/森山高至氏は、国立競技場を絵師が擬人化したTシャツ20点を出展。


2.オリンピック選手村代替案
浅子佳英「Mt Tokyo/Miniature Tokyo Learning from Shopping Malls(マウント トーキョー/ミニチュア トーキョー ラーニング フロム ショッピングモール)
晴海をサイトとし、既存の倉庫街をリノベーションした商業施設、巨大な人口の山:ショッピングモールと公園、非タワーマンション住宅をモザイク状に配置したプラン。
会場で閲覧した本展ガイドブック(同館内:建築書店にて100円で販売/但し、会期終了後の取り扱いは不明。土日祝定休)によれば、出展者の浅子(あさこ)氏は、建築設計やインテリアデザインのほか、ブックデザインも手掛けているとのこと。


3.オルタナティブ・オリンピック
トウキョウ建築コレクション、門脇耕三、谷尻誠、長坂常、永山祐子、羽鳥達也、松田達
今年4月に代官山で開催された「トウキョウ建築コレクション2014」より。会期最終日に行なわれた、修士学生と建築家による「即日設計WS(ワークショップ)」を発展させた展示。以下はその部分。展示協力者名は省略。
左から、門脇耕三氏、谷尻誠氏、長坂常氏の展示パネル。
谷尻氏の提案「船で世界を移動するスタジアム」を見て、博多湾を主な舞台とした磯崎新氏による幻の「福岡五輪2016案」が実現していれば・・・などと詮ない事を思ってしまう。
長坂氏は、五輪開催期間の限定ルールを設けて、地域の小学校などをパブリックビューイング化する提案。


4.ポスト・オリンピックに向けて
プロジェクトGDZ(門脇耕三、川添善行、南後由和、藤村龍至、古澤大輔、松川昌平、水野学)
合同ゼミ合宿で使用したプレゼンテーションのプリントアウトを再構成したものと思われる。

チーム NeXTOKYO(森俊子+森浩生+為末大+藤村龍至+古市憲寿+楠本修二郎+スプツニ子!+梅澤高明)
健康的なライフスタイル、豊かな文化、最先端の技術インフラを備え、在住・訪日外国人からみても魅力的な、クリエイティブシティTOKYOとは何かを考察する。
参考:梅澤高明氏が日本法人会長を務めるA.T.カーニー発行のアジェンダ(PDF計7枚)

建築家らによる「東京オリンピック2020」に関する提案企画展は、青山のスパイラルで「Timberlize TOKYO 2020」が先月開催され、新聞でも取り上げられ、華やかな場所柄もあって多くの来場者を集めていた(会場を新木場タワーに移して10月31日まで開催中。詳細:NPO法人 team Timberlize公式サイト)。一般向けに、とっつきやすいビジュアルや言葉が、もっと露出したほうがいい。

本展に参加、あるいは見に来た学生たちは、6年後は第一線で働いていると思われる。出展した建築家諸氏も、祭典を眺める観客席ではなく、何らかのかたちで五輪に関わっているのだろうか、さて。





+飲食のメモ。
田町は学生街。建築会館の裏手にも飲食店が多数あるが、祝日の昼間に営業している店は多くない。
近隣に勤めているSさんに「蒸し餃子がウマい。夜はたらふく飲んで食べてもリーズナボー」と教わった「中国家庭料理大連」を目指す。建築会館からは徒歩3分ほどの距離。
昼時は5種類くらいから選べるランチあり。食べても食べても減らない、中まで熱々の「麻婆茄子」に、焼き餃子、ザーサイ、中華スープ、白飯(山盛りでくるのでかなり減らしてもらってマス)、デザートまでセットで付いて、消費税込780円。
この値段なら文句は言いにくいのだけれど、できることなら、餃子は焼きたてを供してくれると更においしさ倍増だと思うのじゃが(できないんだろうな)。
お腹いっぱい、ごちそうさまでした。