「ヨコハマトリエンナーレ2014」開幕

3年に一度の国際芸術祭「ヨコハマトリエンナーレ2014」が昨日8月1日より始まった。公式サイトの概要末尾に「*事業名の総称および組織名は「横浜トリエンナーレ」(横浜=漢字表記)、第5回展の事業名は「ヨコハマトリエンナーレ2014」(ヨコハマ=カタカナ表記)となります。」とあり、略称も「ヨコトリ」とする。

横浜美術館メインエントランス前に展示された、ベルギーの作家ヴィム・デルボア( Wim Delvoye )の作品「Flatbed Trailer」。

主会場は《横浜美術館》と《新港ピア》の2つ、ほかにBankArt Studio NYK、黄金町、象の鼻テラスなど周辺エリア内にも幾つかの作品が点在する。例えば・・・、

韓国の作家ギムホンソック(Gimhongsok)の作品「クマのような構造物ー629」

大型商業施設《MARK IS みなとみらい》の地下、みなとみらい線駅直結出入口付近の公共空間に設置され、作品の素材が黒っぽいポリ袋だけにゴミ捨て場と見紛うが、今回の「ヨコトリ」のバナーや主会場を結ぶシャトルバスの外装にも使われている作品。
今回のテーマはレイ・ブラッドペリ(1920-2012)の著作『華氏451度』からとられた。アーティスティック・ディレクターは「なにものへかのレクイエム」などの作品で知られる森村泰昌氏。国内外から65組79名のアーティストが参加、「忘却」に絡めた400を越える作品が出展される(概要は7月31日の開催前日に公表された「第5回記者発表資料.PDF」を参照)。

2つのメイン会場のひとつ、新港ピア(新港ふ頭展示施設)は、横浜港の縁に位置する。ガラスドアから入ってすぐ、やなぎみわさんの最新作「移動舞台車」が、車両の先頭にトラクタヘッド無しのトレーラー(リアカー)に、ピンク色のコンテナを載せた姿で”漂着”している。
やなぎ作品「移動舞台車」は、台湾ではポピュラーなイベント専用のレンタルトラック「ステージカー」がモデル。でも、それって何ぞや? その辺りを含む作品詳細は、開催2日めの夕方、日埜直彦氏が手掛けた[カフェ・オブリビオン]で開催されたアーティスト・トークで明らかに。ホストはやなぎみわさん、ゲストは「ステージカー」の写真集を台湾で刊行している写真家の沈昭良(Shen Chao-Liang)さん。
「ステージカー(stage car)」は「タイワニーズ・キャバレー」とも呼ばれ、 照明、音響、スモーク設備を搭載し、冠婚葬祭には欠かせない存在。道端に停めて披露宴を張ったり、選挙演説の際にも用いられるというから、中華圏文化との違いを感じる。どこからともなく乗りつけ、会場の一角で車両が開くと、あれよという間に煌びやかなステージに。日も暮れて、集まった人々がマイクを握ってカラオケを歌い、皆で楽しむ宴会場と化す。ステージ上で繰り広げられるダンスショーは、やや露出度高めのオトナ向けがお約束らしい。
沈さんは2005年末に台湾の某演芸興行集団を撮影するPJがきっかけとなり、台湾各地に「ステージカー」を追い、カメラにおさめてきた。 台湾国内で現在、700-800台が稼働しているとみられ、 沈さん曰く、「花火のあがるところにステージカーあり」
沈さんが知る最も古い車両は1993年頃のもので、当初は手動で組み立てられるような小さな造作だったが、徐々に大きく、そして派手になっていった。油圧可動式が導入された最近の車両は、運転手一人だけで会場入りし、設営、撤収まで行なってしまう。展開の一部始終は、沈さんが youtube にアップした動画(BGM付、3分39秒)で見ることが出来る。
デコラティブな車両の数々は、沈さんの公式サイトのアーカイブ、台湾公共電視が youtube にアップした動画(音声付き、約1分)、および会場内売店で販売されている沈さんの写真集『STAGE』などにも収録されている。

さて、やなぎさんが「ステージカー」を初めて目にしたのは、第一回台北ビエンナーレ(1998年)に出展した時、オープニングパーティの”出し物”としてきていたのだという。その後、沈さんの写真作品で"再会"、それから長いこと作品化の企画を温めてきた。
ここ数年は「東京ローズ」などの「演劇プロジェクト」も手掛けているやなぎさんは、いずれこの「移動舞台車」で『日論の翼』を舞台化し、原作ゆかりの地を巡業したいと考えている。それには道路交通法や興行候補地それぞれで異なる条例その他の決まり事を全てクリアしなくてはならない。公演中の安全に万全を期す為、ヨコトリでの展示終了後はメンテナンスも必要だ。作品としてさらなる完成を目指し、クラウドファンディング「デコ・プロジェクト」が新たに立ち上がった。出資者の氏名は、コンテナ外装に作品の一部として刻まれるなど、出身金額によって特典がある。 

参考:ファンド主催元がyoutubeにアップしたPR動画(音声付、所要2分15秒)
https://www.youtube.com/watch?v=WgIoeGPRROY&noredirect=1

やなぎみわ「デコ・プロジェクト」PJ開始の告知、および後述の「移動舞台車雙六」の裏面に使われているビジュアルは、沈さんが「ステージカーを撮るのは今回で最後にしようかと思う」と語っていた撮りおろし作品。
会場に貼られた「ポスター」:10月11日撮影(注.販売している「雙六」にサインは入っていません)

日没直後の”マジック・アワー”を狙う為、撮影は僅か15分間が勝負。背景の工場群の夜景と小さな祠以外の、周囲に配された屋台は、この撮影の為だけにセッティングされたもの。

台湾にはこの「ステージカー」を製造する工場が幾つかあり、この「移動舞台車」は外装を除く殆どが吉大笙業工程有限公司の工場で製造された。来年以降にやなぎさんが作演出する予定の芝居(原作は中上健次のロードノベル『日輪の翼』)の舞台となる予定で、外装の絵柄は、原作文中に登場するキーワード翼+蛇=龍をイメージしたものだろう。内部は外装とはうって変わった絵柄で、音響機材やLED照明の配電が、 補強鉄骨の間をぬうようにして張り巡らされている。重量は13t、牽引部のトラクタヘッドが付くと15tにもなる。

やなぎさんが「出来て早々に燃えるんじゃないか」と不安になったほどド派手な爆竹音に送られて工場を旅立ち、高雄港から横浜港本牧ふ頭に荷揚げされ、トラクタヘッドと仮ナンバー付けて新港ピアまで走り、会場に搬入されたのは7月14日。この時点では未だ鈍色の箱だったコンテナが、國立台湾藝術大学、京都造形芸術大学、東北芸術工科大学の学生、ヨコトリサポーター(ボランティア)らによる最終的な仕上げ作業を経て、アート作品になった。制作過程は「やなぎみわ Stage Trailer Project(STP)」ブログ、もしくは会場内の公式ショップで買える「移動舞台車雙六」(下の画)でも辿ることができる。
作品をより深く知れる7つのキーワードを振り出しに、上がりは『日論の翼』の公演。作品にやなぎみわ、沈昭良、宮島達男、都築響一ら関係各氏の寄稿文もついて、販売価格100円はお値打ち。この豪華で超力作の「雙六」ポスターの編集・デザインは、『ニニフニ』編集長の山崎なし氏が担当。

会期中は車両のボックスを閉じた状態で展示されるが、時に「移動舞台車」仕様に「展開(トランスフォーム)」する。
ボックスの天井、左右側面が徐々に開き、徐々に内部の仕様が明らかに。
天井および左右のパネルが最大傾斜までせり上がっていく。途中で取り付けられたミラーボールはかなりの高さにせり上がる。パネルの開閉は油圧式。一人居れば、(2か月後に行なわれたアーティストトークでゲストの都築響一氏が「鉄人28号の正太郎君が使ってるみたいな」と比喩した)"巨大リモコン"で操作できる。
ステージを支える支脚や、ステージまわりの垂れ幕が取り付けられる。細部の作業はアナログ。あっという間にステージが完成。垂れ幕は、やなぎさんと東北芸術工科大学の学生が描いた「STP東北画」(参考リンク:「東北画は可能か?」公式サイト)
運転席側から、開いた天井パネルの見上げ。大迫力!
ステージ上にはLED照明が数台設置されており、この後、始まった「ショー」を鮮やかに演出した。
「夏芙蓉」の下、ステージ後方のドアが開き、ビキニ姿の女性ダンサーが登場。大音響のBGMにあわせて、華麗なるポールダンスが披露される。やんやの喝采と拍手に包まれる場内。
パフォーマンスの様子は、内覧会を取材した「インターネット・ミュージアム」の取材記事上にアップしている動画の後半部分で見ることができる。
http://www.museum.or.jp/modules/topNews/index.php?page=article&storyid=3263
やなぎさんが「筋力がないのでとてもムリ」と諦めたと話していたダンスパフォーマンスは、見ているこちらが恐くなるくらいポールが揺れる、難易度の高いダンス。脱着式のポールは、ステージ床にガムテープで留められた状態で台湾から納品されたらしい。
本展終了後、「移動舞台車」はいったん大阪の倉庫に預けた後、来年3月から開催される「PARASOPHIA:京都国際現代芸術祭2015」に再び出展される。どのようにパワーアップしているか、今から楽しみだ。今後も継続するSTPの最新情報は、前述公式ブログと並行して公式Twitterでも発信あり。

ヨコトリ2014」会期は11月まで。主会場の入場およびイベント聴講は有料。詳細は公式サイト参照。

「ヨコハマトリエンナーレ2014」
華氏451度の芸術:世界の中心には忘却の海がある
http://www.yokohamatriennale.jp/2014/




飲食のメモ。
みなとみらい線馬車道駅近く、地元の紅茶専門店「SAMOVAR(サモアール)馬車道店」では、数種類のオムライスが味わえる。
「ほうれん草とガーリックライスのオムライス」、ホットまたはアイスの紅茶が付いて、税込み1,400円。おいしゅうございました。

ヨコトリのもうひとつのメイン会場《横浜美術館》の向かい、同線みなとみらい駅直結、昨年6月にオープンした大型複合施設《MARK IS みなとみらい》にも飲食店はたくさんあるが、休日は何処も行列。穴場なのは地下フードコートの韓方茶カフェ「OGADA 五嘉茶」。
スープと、数種類から選べる韓方茶が付いた「ピピンパ」セット、税込み1,080円はリーズなボー。

同4F「みんなのフードコート」もあなどれん。せっかく横浜に来たんだから的な強欲を満たしてくれる。
麻婆豆腐専門店「福満園」にて、普通の辛さの「麻婆豆腐」+白飯+スープ+ザーサイが付いたセットで税込み850円。これ以上辛いのはNGだが、もう少し山椒がきいてる方が好み。
口の中がピリ辛くなって冷たい甘味が欲しくなったら、再びB1Fのフードコートへ。
北海道「町村農場」イートインコーナーにて、全て自家製の「マスカルポーネとクリームチーズの蜂蜜サンデー」税込み512円ナリ。乳製品スキーにはたまらない美味しさ。

お腹いっぱい胸いっぱい。ごちそうさまでした。