春日大社重文見学と奈良ホテル

奈良・春日大社にて。
平成27-28年 第60年次式年造替(しきねんぞうたい)に向け、境内各社殿は現在、各所で修理中。国宝の本殿を筆頭に、幣殿など十棟の重要文化財(重文)指定建造物の保存修理、該当各社の修理、境内の整備、調度品・祭器具の調製などが執り行われている。
本来は非公開だが、十棟のひとつ「移殿(うつしどの、古称:内侍殿)」の造替工事現場が、2月3日から15日にかけて特別公開された。朝10:30に春日大社南門に集合、という午前の回に参加(無料、事前予約不要の先着順、各回20名)。


伊勢神宮は社殿一式が隣接地に造営されるが、ここ春日大社では、御廊の西側の渡り階段「捻廊(ねじろう、伝:左甚五郎作)」で繋がった「移殿(うつしどの、内待殿)」が神様の仮住まいとなり(仮殿遷座、平成27年3月27日)、翌年11月の本殿遷座までの間に本殿の修理を行なう方式。
南門を抜けた正面に位置する「幣殿(へいでん)・舞殿(ぶでん)」。この左奥に、工事中の「移殿」が覆屋に護られて建っている(参照:境内MAP)。
「移殿」北側より入る。
現場は撮影禁止につき、舞殿前に置かれた再現見本で、檜皮(ひわだ)葺きに関する見聞を記す。
配布物と説明に拠れば、原皮師(もとかわし)と呼ばれる職人が、幹に「ぶり縄」を引っ掛けながら、檜(ひのき)の立ち木を登り、800年前からほぼ変わらぬ形状というナタで、下から上に一気に樹皮を剥ぎ取っていく。樹皮を採取した檜は、表面が復元するまで養生する。今回の造替では、檜皮12万枚・畳140畳分=3,000本の立ち木が必要になる為、春日大社では40年ほど前から三重県に檜の山林を保有し、育成している。
採取後に整形された「平葺き皮」の大きさは15×75cm。前もって水で濡らしてから、檜皮師と呼ばれる職人の手により、1.5cmずつ並行にずらしながら、現在は京都に一人しか居ないという職人が作った竹釘を、上下三カ所、2cmピッチで打ち付け、横一線に葺いていく。見事な断面は、手斧(ちょうな)で上端から下端にかけて、一気にざっくりと裁断したもの。

社殿および回廊の屋根材は全て檜皮葺き。支える部分(蛇腹)まで檜を使うのは高級仕様。

写真は西回廊と南回廊の交錯部分の見上げ。此処に限らず、屋根同士が90度に交わっている箇所の「葺き」ががどうなっているのか、現代の技術をもってしても、かなりの難易度の高さらしい。
ライトアップイベント「しあわせ廻廊 なら瑠璃絵」開催にあわせ、昨晩、万燈籠が開催された回廊、南から東回廊にかけての眺め。
朱の色は本殿が最も朱く、外側にいくほど朱色を1割落として塗装されているとのこと。



+飲食(朝食)のメモ。
重文見学前の、朝一番の腹ごしらえ。クラシックホテルとして高名な《奈良ホテル》へ。こちらは宿泊者以外でも、ダイニングやティールームを利用できる。

《奈良ホテル》は1909年(明治42)創業。桃山御殿風檜造りの本館は、辰野金吾の設計(参照元:同ホテル公式サイト施設案内)。同「奈良ホテル物語」に載った、この100年間に宿泊した人々の煌びやかさよ。
本館正面入口。ここからして格式高い格天井(ごうてんじょう)とは、なんと豪華。
入ってすぐ正面に見える大階段、天井見上げ。折上の格天井か。
追記:階段の長い手すりは1本の檜から切り出されたもので、擬宝珠はかつては鋳鉄製だったが、戦時中に回収され、陶製となった。画面下に、奥の「THE BAR」の空間を彩る「エッチングガラス」が写っている。辰野金吾設計当初のもので、近年行なわれた改修工事の際に発見されたもの。ーー以上、テレビ東京「美の巨人たち」8月23日オンエア情報(※)より。
窓の外、朱の高欄(※戦後の米軍撤収時にやむなき事情で塗装されたもの)に擬宝珠付き。釣燈籠のような照明器具といい、寺社建築のようなつくり。

絨毯が敷かれた廊下の先、メインダイニングルーム「三笠」へ。 朝食の時間は7:30〜9:30、茶粥がとみに有名。
「茶がゆ定食」税サ込みで2.413円(某ホテルグループ会員割引あり)。
朝から五臓六腑に染み渡りました。ごちそうさまでした。
三笠」はなんといってもロケーションが素晴らしい。宿泊していない訪問者への丁寧な接し方も特筆点。無粋な撮影を許してくれて、アリガトウございます。
また来たい、と何度でも振り返ってしまう。そんな気持ちにさせるのが、一流の証か。

奈良ホテル
https://www.narahotel.co.jp